24時間ジムのロッカールームで、鍵のかかる音が3回聞こえた
2026年09月14日
友人のKが教えてくれた話だ。彼は28歳、港区の24時間ジムに通い続けて2年になる。
もともと家でもトレーニングできる環境はあるのだが、続かない。ジムは「外に出る強制力」が効く。それが理由だった。
最初の3ヶ月は順調だった。深夜11時頃に行って、1時間ほど鍛えて、帰る。ロッカールームでロッカーに鍵をかけて、シャワーを浴びて、そのまま帰る。ルーチンだった。
ある日、深夜2時頃だったと思う。
最後の客としてロッカールームに入ったら、自分のロッカーの鍵が、かたく、音がして閉まっていた。
「あ、勝手に閉まった」
そう思ってポケットから鍵を取り出し、差し込んで回す。普通にかかった。鍵をかけて、タオルとスマホをロッカーに入れて、シャワー室へ向かった。
シャワーを浴びている時、ふと耳に入った。
カチッ、カチッ、カチッ
ロッカーの鍵を回す音だ。
「あー、また鍵閉めた人いるのか」
深夜2時。ジムに他に客がいるはずがない。24時間ジムでも、この時間になると通常1人か2人。シャワー室の壁は薄い。音がよく響く。
「まあ、掃除のおじさんか」
そう思って、シャワーを続けた。
5分後、タオルで体を拭いてロッカールームに戻ったら、自分のロッカーの前に、水滴が床に落ちていた。
自分以外の靴の跡。
濡れたスニーカーの靴底が、床に置かれたままだった。
「……誰かいる?」
返事はない。静かだった。ジム内のスピーカーからは、低音量でBGMが流れている。ジャズ系のインストゥルメンタル。
ロッカーの鍵を確認した。かかっている。外れないように、丁寧に回してある。
「ああ、掃除の人が入ったのか」
そう思って、鍵を外してロッカーを開けた。
タオルはそのまま。スマホはそのまま。
でも、タオルの端が、地面に引きずられたように、わずかに床に垂れていた。
自分がシャワーを浴びている間に、誰かがロッカーを開けて、タオルを少し引っぱり出した。
そして、何も持っていかない。
ただ、タオルを少しだけ床に垂らして、去った。
Kは立ち尽くした。
その時、ロッカールームの入口のドアが、静かに閉まる音がした。
彼は出口のドアを開けようとした。
開かない。
電子ロックがかかっている。
スマホの電波もない。24時間ジムとはいえ、この時間、監視カメラの部屋に電話する番号がある。しかし、スマホがない。
自分のロッカーの中から、スマホが消えていた。
タオルだけを床に垂らして去った者は、彼のスマホを持って行った。
そして、ドアに電子ロックをかけて、出て行った。
Kはロッカールームの中で、1人、30分間、立ち尽くしたという。
「でもさ」Kは続けた。
「その後、もう一度、ロッカーを開けたら、スマホが、中にあった」
「……入ってた?」
「うん。自分のロッカーの中に、元の場所に戻してあった」
「それだけ?」
「うん。それだけ」
Kはそれ以来、そのジムに行っていない。
「タオルを引きずられた時、ロッカーの向こう側で、息をする音がした」
「……息が?」
「うん。人の息が。ロッカーの中から」
24時間ジム。いつでも誰でも入れる。
その「誰でも」というのが、何を意味するのか。
次回から、鍵をかけた後、もう一度、ロッカーの向こう側を聞いてみるといい。