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友人のKが教えてくれた話だ。彼は28歳、港区の24時間ジムに通い続けて2年になる。

もともと家でもトレーニングできる環境はあるのだが、続かない。ジムは「外に出る強制力」が効く。それが理由だった。

最初の3ヶ月は順調だった。深夜11時頃に行って、1時間ほど鍛えて、帰る。ロッカールームでロッカーに鍵をかけて、シャワーを浴びて、そのまま帰る。ルーチンだった。

ある日、深夜2時頃だったと思う。

最後の客としてロッカールームに入ったら、自分のロッカーの鍵が、かたく、音がして閉まっていた。

「あ、勝手に閉まった」

そう思ってポケットから鍵を取り出し、差し込んで回す。普通にかかった。鍵をかけて、タオルとスマホをロッカーに入れて、シャワー室へ向かった。

シャワーを浴びている時、ふと耳に入った。

カチッ、カチッ、カチッ

ロッカーの鍵を回す音だ。

「あー、また鍵閉めた人いるのか」

深夜2時。ジムに他に客がいるはずがない。24時間ジムでも、この時間になると通常1人か2人。シャワー室の壁は薄い。音がよく響く。

「まあ、掃除のおじさんか」

そう思って、シャワーを続けた。

5分後、タオルで体を拭いてロッカールームに戻ったら、自分のロッカーの前に、水滴が床に落ちていた。

自分以外の靴の跡。

濡れたスニーカーの靴底が、床に置かれたままだった。

「……誰かいる?」

返事はない。静かだった。ジム内のスピーカーからは、低音量でBGMが流れている。ジャズ系のインストゥルメンタル。

ロッカーの鍵を確認した。かかっている。外れないように、丁寧に回してある。

「ああ、掃除の人が入ったのか」

そう思って、鍵を外してロッカーを開けた。

タオルはそのまま。スマホはそのまま。

でも、タオルの端が、地面に引きずられたように、わずかに床に垂れていた。

自分がシャワーを浴びている間に、誰かがロッカーを開けて、タオルを少し引っぱり出した。

そして、何も持っていかない。

ただ、タオルを少しだけ床に垂らして、去った。

Kは立ち尽くした。

その時、ロッカールームの入口のドアが、静かに閉まる音がした。

彼は出口のドアを開けようとした。

開かない。

電子ロックがかかっている。

スマホの電波もない。24時間ジムとはいえ、この時間、監視カメラの部屋に電話する番号がある。しかし、スマホがない。

自分のロッカーの中から、スマホが消えていた。

タオルだけを床に垂らして去った者は、彼のスマホを持って行った。

そして、ドアに電子ロックをかけて、出て行った。

Kはロッカールームの中で、1人、30分間、立ち尽くしたという。

「でもさ」Kは続けた。

「その後、もう一度、ロッカーを開けたら、スマホが、中にあった」

「……入ってた?」

「うん。自分のロッカーの中に、元の場所に戻してあった」

「それだけ?」

「うん。それだけ」

Kはそれ以来、そのジムに行っていない。

「タオルを引きずられた時、ロッカーの向こう側で、息をする音がした」

「……息が?」

「うん。人の息が。ロッカーの中から」


24時間ジム。いつでも誰でも入れる。

その「誰でも」というのが、何を意味するのか。

次回から、鍵をかけた後、もう一度、ロッカーの向こう側を聞いてみるといい。