3階で止まるエレベーター、中から聞こえる足音
2026年09月17日
僕が今住んでいるアパートは築28年、12階建てのマンションだ。エレベーターは1台で、時々ガタガタと揺れる。大家さんから「もうすぐ点検するから」と言われてから、3週間が経とうとしている。
実は、そのエレベーターに何かいる。
初めて気づいたのは、先月の中旬だった。夜中1時過ぎ、帰宅してエレベーターを呼んだら、3階で止まったままの表示が出る。12階に到着するまで、3階の階数表示が点滅し続けた。
「またか」と思い、エレベーターに乗って12階を押した。中は暗く、自分の息遣いだけが響いている。閉じようとした瞬間、床がわずかに震えた。重たい物を誰かが乗せた感じだ。
でも、3階には誰もいない。
2回目の夜は、エレベーターが止まった後、中から足音が聞こえた。
ガサ、ガサ、ガサ。
3階で閉まったドアが開き、誰かが入ってくる音。でも、モニターの画面には3階のホールは映っていない。エレベーターのカメラは、中を映すようになっている。
中を見ると、誰もいない。
でも、床が濡れていた。水滴が、所々に残っていた。
3回目の夜は、僕がエレベーターを呼んだ時、表示がいきなり「—」になった。階数表示が消え、点灯していたLEDが全部消えた。
暗闇の中で、背後から声がした。
「3階……」
振り返ってもいない。振り返ろうともした。でも首が動かなかった。
「3階……止めて……」
その声は、女性の声ではなかった。もっと、機械的な音に近かった。声というより、金属が擦れる音に、人間の知覚が意味を見出そうとした結果のように聞こえた。
エレベーターのLEDが復旧し、3階の表示が点灯した。
そして、ドアが開いた。
3階のホールには、水たまりが広がっていた。水滴の軌跡は、エレベーターの中まで続いていた。
それ以来、僕はエレベーターを避けている。階段を使う。12階まで、198段の階段だ。
でも、先週のこと。エレベーターの前を通ったら、3階の表示が点滅していた。
中から、足音が聞こえた。
ガサ、ガサ、ガサ。
止まらない。3階で止まらない。ずっと、点滅し続けている。
大家さんに相談したら、「エレベーターの配線が古いから、そういうことあるよ」と笑って済ませられた。
でも、配線なら点検で直るはずだ。
僕は、3階で止まったままのエレベーターの中に、誰かがいると思っている。
そして、その誰かが外に出るのを待っている。
今夜、帰宅したらエレベーターが止まっていた。
3階で。
点灯していた表示が、ゆっくり消えていく。
暗闇の中で、足音が聞こえた。
ガサ、ガサ、ガサ。