私の部屋のインターホンが、夜中3時に鳴った
2026年10月15日
私の住んでいる集合住宅は、築三十年の古いアパートだ。廊下には薄黄色い蛍光灯が一つだけあり、常にチカチカと鳴っている。大家さんも放ったらかしで、大家さんに言っても「そのうち直すから」と返事が来るだけで、三年が経った。
その夜は、残業で夜中の二時過ぎに帰宅した。地下鉄の最終電車も過ぎた時間だ。エレベーターはもう止まっているので、階段を上がって自分の部屋の三階の廊下に出た。
薄黄色い蛍光灯がチカチカと鳴っている。
いつものことなので気にせず、鍵を開けようとしたその時だった。
ピッ——ピッ——ピッ——
廊下のインターホンが鳴った。
夜の三時。インターホンが鳴ることは、ほとんどない。配達もない。訪ねてくる友人もいない。私はインターホンの画面を見た。
緑色の液晶に、部屋番号が表示されていた。
999
999番室なんて、このアパートには存在しない。一階から三階まで、部屋番号は順に並んでいる。101、102、201、202、301、302。それが私の部屋だ。
999番室なんて、この建物を設計した人間が、計算を間違えたとしても存在しない数字だ。
「誰かのカテ間違いだろう」と思い、インターホンを切ろうとした。
その時だった。
ピッ——ピッ——ピッ——
また鳴った。同じ部屋番号、999番。
そして液晶画面が、一瞬だけ点滅した。999の数字が、一瞬だけ402に変わった。
402番。四階の二室目。
四階にはロフトがあって、住んでいる人はいない。大家さんが鍵をかけている。誰もいないはずの部屋から、インターホンが鳴っている。
私はインターホンを無視して、自分の鍵を開けて部屋に入った。鍵を閉めて、チェーンをかけ、ドアノブにもロックをかけた。
そして、またインターホンが鳴った。
今度も999番。
でも、今回は違う。画面に、小さな文字が追加されていた。
「開けて」
私は凍りついた。インターホンの向こうから、声が聞こえてきた。
低い、唸るような声。しかし、はっきりと言葉になっている。
「開けて……」
二度目も三度も同じことを繰り返した。
私はインターホンのコードを抜いた。インターホンが完全に止まった時、廊下から、足音がした。
重く、ゆっくりとした足音。階段を上がってくる音だ。一階から、二階から、三階へ。
そして、私のドアの前に止まった。
ドアノブが、ゆっくりと回った。
チェーンがかかっているから大丈夫だ。そう思いながら、私はドアのインターホン画面を見た。
画面には、999の数字が表示されていた。
そして、その数字の下に、小さな文字が追加されていた。
「見つかった」
その夜、私は警察を呼んだ。廊下には誰もいなかった。インターホンの配線を確認した警察官が、言った。
「このインターホンの配線、三階の階段の真下で切断されてる。外から鳴らすことなんてできないよ」
インターホンの配線が切断されている。
なのに、インターホンが鳴った。
そして、足音がした。
その日以来、私はそのアパートには住んでいない。引っ越す時に大家さんに言ったら、大家さんは顔色を変えて言った。
「前の住人も、同じことを言ってたよ」
前の住人も、同じことを言ってた。
そのアパートの四階には、三十年前にも住人がいた。その人は、ある夜インターホンが鳴って、ドアを開けた後、行方不明になった。
警察は捜索したが見つからなかった。事件として成立しなかったのは、現場に足跡も、痕跡も、何もないからだった。
大家さんは、四階をロフトにして、それ以来誰も入れなくした。
私はその夜、インターホンが鳴るたびに、999番の部屋番号を思い出す。
あなたのアパートにも、存在しない部屋番号が表示されたら、どうするだろうか。
この記事は、友人の知人の体験談を元にしています。名前や住所は変更しています。