宅配ボックス

配送予定もないのに、宅配ボックスに「荷物」が

私は東京・世田谷の築十五年のマンションに住んでいる。三階、オートロック付き、インターホン付きの宅配ボックス付き物件だ。

正直、宅配ボックスがあるおかげで、外出先でも配達が気にならない。これは便利だと本気で思っていた。

それが先週のことだ。

夜中の一時過ぎ、スマホが振動した。画面を見ると、宅配ボックスの通知アプリから「新しい荷物があります」というプッシュ通知が来ている。

「え、今頃……?」

配送予定は全く覚えていない。心当たりがあるのは、先月に本を二冊注文したくらいだ。どちらもすでに届いている。

「誤作動かな」

そう思って、私は通知を消して布団に入った。

しかし、翌朝、ふと宅配ボックスを見ると、小さな段ボール箱が収められていた。サイズは約二十センチ四方。配送業者のシールも貼ってある。

送り主は「不明」。宛名には私の名前と住所が印字されていた。

「誰か冗談で送ってきたのかな」

そう思いながら、私は箱を開けた。

中に入っていたのは、私自身の「名刺」だった。

名刺の裏に書かれた文字

名刺の表面は、私が今使っているものそっくりだった。会社名、部署名、名前——すべて一致している。

しかし、裏面に書かれた文字を見て、私は背筋が寒くなった。

裏面には、ただ一行、黒いインクでこう書かれていた。

「三階、左から二番目の部屋——あなたは今、誰と住んでいますか」

「……意味がわからない」

私は名刺を机の引き出しにしまい、その日は仕事に行った。

しかし、その夜、また宅配ボックスに通知が来た。

「新しい荷物があります」

開けてみると、今度は私の「会社の社員証」だった。写真も名前も、すべて本物そっくり。ただし、社員証の有効期限は「明日」になっていた。

「明日」が何月何日なのか、よく見ると、それは今日の日付の「翌日」ではなかった。

2030年の同じ日付だった。

見知らぬ「私」の写真

その日以来、宅配ボックスには毎晩、何かが届くようになった。

私の「免許証のコピー」。私の「医療機関の診察券」。私の「銀行口座の通帳のコピー」。

どれも本物そっくりで、写真も私だ。ただし、少し表情が違う。まるで別人が写っているような、不自然な笑みを浮かべている。

私は警察に相談した。すると、警察は「犯人の犯行声明かもしれない。大家に問い合わせてみる」と言って、大家に連絡してくれた。

大家からの返事は、こうだった。

「宅配ボックスには、昨夜、何も入っていませんよ」

「……え?」

「ええ。昨日も一昨日も、何も入っていないはずです。確認しました」

私はその場で、スマホの通知履歴を見た。

「新しい荷物があります」

何度も何度も、通知が来ている。

しかし大家が言うには、宅配ボックスには何も入っていない。

宅配ボックスの奥に

その夜、私は寝ないことにした。

宅配ボックスの通知が来たら、すぐに階下に行って確認する。

夜中の二時四十七分、また通知が来た。

「新しい荷物があります」

私はすぐに部屋を出て、階段を降りていった。インターホンを開け、宅配ボックスの扉を開ける。

箱は入っていない。

しかし、扉の奥の隅に、小さな黒い折り紙が一つ、置かれていた。

折り鶴だった。

折り鶴の羽根の一枚に、鉛筆で小さく書かれていた。

「もうすぐ、あなたが住む部屋に入ります」

私はその場を走り出した。エレベーターではなく階段を駆け上がり、三階の自室のドアを開けた。

部屋はいつも通りだった。

しかし、私の名刺が、机の上に置かれていた。

先ほど引き出しにしまったはずの名刺が。

そしてその名刺の裏に、新しい文字が足されていた。

「三階、左から二番目の部屋」

私は左から二番目の部屋——つまり、隣人の部屋に住んでいる。

その時、隣から、ドアが開く音がした。

あとがき

その後のことは、私は覚えていない。

翌朝、目が覚めたら、私は隣人の玄関先に寝ていた。隣人は「昨夜、誰もドアを開けなかった」と言っていた。

そして今日、宅配ボックスには何もない。

ただ、私の名刺が、私の部屋中の至る所に、貼られていることに気づいた。

テレビの画面に、冷蔵庫の扉に、鏡に、枕元に。

全て同じ文字が書かれている。

「もうすぐ、あなたが住む部屋に入ります」