オートロックのマンションの宅配ボックスに、配送予定もないのに荷物が届いた
2026年09月07日
配送予定もないのに、宅配ボックスに「荷物」が
私は東京・世田谷の築十五年のマンションに住んでいる。三階、オートロック付き、インターホン付きの宅配ボックス付き物件だ。
正直、宅配ボックスがあるおかげで、外出先でも配達が気にならない。これは便利だと本気で思っていた。
それが先週のことだ。
夜中の一時過ぎ、スマホが振動した。画面を見ると、宅配ボックスの通知アプリから「新しい荷物があります」というプッシュ通知が来ている。
「え、今頃……?」
配送予定は全く覚えていない。心当たりがあるのは、先月に本を二冊注文したくらいだ。どちらもすでに届いている。
「誤作動かな」
そう思って、私は通知を消して布団に入った。
しかし、翌朝、ふと宅配ボックスを見ると、小さな段ボール箱が収められていた。サイズは約二十センチ四方。配送業者のシールも貼ってある。
送り主は「不明」。宛名には私の名前と住所が印字されていた。
「誰か冗談で送ってきたのかな」
そう思いながら、私は箱を開けた。
中に入っていたのは、私自身の「名刺」だった。
名刺の裏に書かれた文字
名刺の表面は、私が今使っているものそっくりだった。会社名、部署名、名前——すべて一致している。
しかし、裏面に書かれた文字を見て、私は背筋が寒くなった。
裏面には、ただ一行、黒いインクでこう書かれていた。
「三階、左から二番目の部屋——あなたは今、誰と住んでいますか」
「……意味がわからない」
私は名刺を机の引き出しにしまい、その日は仕事に行った。
しかし、その夜、また宅配ボックスに通知が来た。
「新しい荷物があります」
開けてみると、今度は私の「会社の社員証」だった。写真も名前も、すべて本物そっくり。ただし、社員証の有効期限は「明日」になっていた。
「明日」が何月何日なのか、よく見ると、それは今日の日付の「翌日」ではなかった。
2030年の同じ日付だった。
見知らぬ「私」の写真
その日以来、宅配ボックスには毎晩、何かが届くようになった。
私の「免許証のコピー」。私の「医療機関の診察券」。私の「銀行口座の通帳のコピー」。
どれも本物そっくりで、写真も私だ。ただし、少し表情が違う。まるで別人が写っているような、不自然な笑みを浮かべている。
私は警察に相談した。すると、警察は「犯人の犯行声明かもしれない。大家に問い合わせてみる」と言って、大家に連絡してくれた。
大家からの返事は、こうだった。
「宅配ボックスには、昨夜、何も入っていませんよ」
「……え?」
「ええ。昨日も一昨日も、何も入っていないはずです。確認しました」
私はその場で、スマホの通知履歴を見た。
「新しい荷物があります」
何度も何度も、通知が来ている。
しかし大家が言うには、宅配ボックスには何も入っていない。
宅配ボックスの奥に
その夜、私は寝ないことにした。
宅配ボックスの通知が来たら、すぐに階下に行って確認する。
夜中の二時四十七分、また通知が来た。
「新しい荷物があります」
私はすぐに部屋を出て、階段を降りていった。インターホンを開け、宅配ボックスの扉を開ける。
箱は入っていない。
しかし、扉の奥の隅に、小さな黒い折り紙が一つ、置かれていた。
折り鶴だった。
折り鶴の羽根の一枚に、鉛筆で小さく書かれていた。
「もうすぐ、あなたが住む部屋に入ります」
私はその場を走り出した。エレベーターではなく階段を駆け上がり、三階の自室のドアを開けた。
部屋はいつも通りだった。
しかし、私の名刺が、机の上に置かれていた。
先ほど引き出しにしまったはずの名刺が。
そしてその名刺の裏に、新しい文字が足されていた。
「三階、左から二番目の部屋」
私は左から二番目の部屋——つまり、隣人の部屋に住んでいる。
その時、隣から、ドアが開く音がした。
あとがき
その後のことは、私は覚えていない。
翌朝、目が覚めたら、私は隣人の玄関先に寝ていた。隣人は「昨夜、誰もドアを開けなかった」と言っていた。
そして今日、宅配ボックスには何もない。
ただ、私の名刺が、私の部屋中の至る所に、貼られていることに気づいた。
テレビの画面に、冷蔵庫の扉に、鏡に、枕元に。
全て同じ文字が書かれている。
「もうすぐ、あなたが住む部屋に入ります」