風呂場の換気扇

実話です。僕の話じゃない。大学時代の後輩、Kの話。

Kは東京・世田谷のワンルームに住んでいた。一軒家を二つに切ったような、古い物件で、壁が薄く、隣人の生活音が丸聞こえだった。

風呂場は玄関から一番離れた隅にあった。換気扇は天井についた円形のボタンを押すと回るといった、ごく普通のもの。

ある日、Kは風呂を浴びた後、いつものように換気扇を回してベッドに入った。

眠たくなってきて、ふと気づいた。

換気扇の音が、止まらない。

「あ、付けっぱなしだ」

Kは起き上がり、風呂場へ向かった。廊下は薄暗い。壁に貼られた蛍光灯のテープが、かすかに光っている。

風呂場の扉を開けると、換気扇が確かに回っていた。

「また付けっぱなしだな」

Kは天井のボタンを押し、換気扇を止めた。

「また付けっぱなしにするのか」

Kは苦笑いしながらベッドに戻り、寝ついた。

翌朝、Kは会社へ行く前に風呂を浴びようとした。

風呂場の換気扇が、回っていた。

「おかしいな。昨日付けたっけか」

Kはボタンを押し、止めた。

その夜、Kは風呂を浴びた後、換気扇のボタンを二回押した。確実に止まっていることを確認して、ベッドに入った。

眠たくなってきて、ふと気づいた。

換気扇の音が、止まらない。

Kは起き上がり、廊下へ歩いた。

風呂場の扉が開いていた。

中を見ると、換気扇が回っていた。

「誰かが入ったのか」

Kは扉を閉め、ボタンを押し、帰ってきた。

その瞬間、気づいた。

廊下の蛍光灯のテープが、点滅している。

Kは背筋が凍るのを感じた。

次の日、Kは大家に相談した。

「風呂場の換気扇が、勝手に回ってるんです」

大家は首をかしげた。

「うち物件、換気扇にタイマーつけてるよ。一時間経つと勝手に止まるはずだけど」

Kは帰ってきて、その夜、録音機を風呂場に置いた。

そして、翌朝再生した。

録音された音は、Kの寝息と、換気扇の音だけだった。

しかし、よく聞いてみると、換気扇の音の中に、別の音が混じっていた。

水が滴る音。

そして、低い唸り声。

Kは翌日から、風呂場に入らなくなった。

ある夜、Kは寝ようとしていた。

ふと、換気扇の音が聞こえた。

Kは自分の部屋には換気扇がないことに気づいた。

音は、どこから来ているのか。

天井から。

Kの部屋の天井に、小さな換気口があった。

それが、回っていた。

Kは、その日からその部屋を飛び出した。

引っ越すまでに、換気扇の音は、一ヶ月間、Kの耳離れなかった。

引っ越した先の大家に話をすると、大家は顔色を変えた。

「前の入居者、風呂場で亡くなっていたんだよね。心 stop 。まだ遺品が全部、取ってないから」

Kは、今でも、換気扇の音が聞こえると思う。

気のせいだ。そう思うしかない。