風呂場の換気扇が、夜中だけ回っている
2026年11月05日
実話です。僕の話じゃない。大学時代の後輩、Kの話。
Kは東京・世田谷のワンルームに住んでいた。一軒家を二つに切ったような、古い物件で、壁が薄く、隣人の生活音が丸聞こえだった。
風呂場は玄関から一番離れた隅にあった。換気扇は天井についた円形のボタンを押すと回るといった、ごく普通のもの。
ある日、Kは風呂を浴びた後、いつものように換気扇を回してベッドに入った。
眠たくなってきて、ふと気づいた。
換気扇の音が、止まらない。
「あ、付けっぱなしだ」
Kは起き上がり、風呂場へ向かった。廊下は薄暗い。壁に貼られた蛍光灯のテープが、かすかに光っている。
風呂場の扉を開けると、換気扇が確かに回っていた。
「また付けっぱなしだな」
Kは天井のボタンを押し、換気扇を止めた。
「また付けっぱなしにするのか」
Kは苦笑いしながらベッドに戻り、寝ついた。
翌朝、Kは会社へ行く前に風呂を浴びようとした。
風呂場の換気扇が、回っていた。
「おかしいな。昨日付けたっけか」
Kはボタンを押し、止めた。
その夜、Kは風呂を浴びた後、換気扇のボタンを二回押した。確実に止まっていることを確認して、ベッドに入った。
眠たくなってきて、ふと気づいた。
換気扇の音が、止まらない。
Kは起き上がり、廊下へ歩いた。
風呂場の扉が開いていた。
中を見ると、換気扇が回っていた。
「誰かが入ったのか」
Kは扉を閉め、ボタンを押し、帰ってきた。
その瞬間、気づいた。
廊下の蛍光灯のテープが、点滅している。
Kは背筋が凍るのを感じた。
次の日、Kは大家に相談した。
「風呂場の換気扇が、勝手に回ってるんです」
大家は首をかしげた。
「うち物件、換気扇にタイマーつけてるよ。一時間経つと勝手に止まるはずだけど」
Kは帰ってきて、その夜、録音機を風呂場に置いた。
そして、翌朝再生した。
録音された音は、Kの寝息と、換気扇の音だけだった。
しかし、よく聞いてみると、換気扇の音の中に、別の音が混じっていた。
水が滴る音。
そして、低い唸り声。
Kは翌日から、風呂場に入らなくなった。
ある夜、Kは寝ようとしていた。
ふと、換気扇の音が聞こえた。
Kは自分の部屋には換気扇がないことに気づいた。
音は、どこから来ているのか。
天井から。
Kの部屋の天井に、小さな換気口があった。
それが、回っていた。
Kは、その日からその部屋を飛び出した。
引っ越すまでに、換気扇の音は、一ヶ月間、Kの耳離れなかった。
引っ越した先の大家に話をすると、大家は顔色を変えた。
「前の入居者、風呂場で亡くなっていたんだよね。心 stop 。まだ遺品が全部、取ってないから」
Kは、今でも、換気扇の音が聞こえると思う。
気のせいだ。そう思うしかない。