海水中の海底探査カメラから送られてくる映像。底が明らかに見えているのに、そこから何かが動いている

■ 資料:深海計測所の日常監視ログ(2026年2月〜3月)

記録者: 三浦健次郎 / 海底深度-385m地点 監視塔A(通称・海眼) 対象設備: 潮位感知器No.7、水中カメラC-3

「三月五日二十三時十七分。波高計が異常な深さの波を検出。」

「通常観測範囲は海面から約一〇メートル以内である。しかし本日のデータでは海底面より二.八三メートル下の波浪変動を記録している。」

【同一日 同日二十時五十分】私人日記・断章

今日は潮位感知器の定期点検に行った。海底面には藻や貝殻がびっしり付着していて、普段はいつもこの通り。ただし今日だけ妙な感触があった。「底がない」のではなく「底が向こう側に見える」。まるでガラスの下のようだった。

気がついたのは二つ目。波高計の表示画面に、水深が逆に表示されていたのだ。本来「+」「-」で波浪の上下を示す。しかし本日、すべての数字が「深さとして正しく」表示されている。海の高さは三.一メートル。その数字の下に同じ数字を引いたかのように、「381」まで伸びる計算結果があった。

計算した。水面から二八五メートル下の地点まで、すべて計測できている可能性。「これは物理的にありえない。」しかし三浦さんはそれを否定したかった。

【三月六日 朝七時】同級生・海洋生物学者A氏の連絡メモ

「三浦くんが昨日朝に電話したんです。彼はすごく興奮していて、『海の下に壁がある』と連呼していました。『二八五メートル下の地点にある底面、そこには何かいる』って。」

【三月六日 昼十二時】深海計測所・機械保守記録No.112

潮位感知器のデータが異常です。今日一日中「0m」と表示しています。

しかし監視カメラC-3の録画再生を確認しましたところ:

  • 二月五日〜三日六日の全時間帯で、水中カメラから送られる映像が正常撮影されている
  • カメラに記録された海流は激しく動いている

【三月七日】三浦健次郎の手書きノート(海上自衛隊救難本部が持ち帰り。現場回収時)

「底が見えない。」 「二八五メートル以下は、すべて見えない。」 「私は底を見たことがない。この先にも海があることを疑えなくなっていく。おそらく、今もそこにある水よりも向こうにも水があるかもしれないし、あるいはもう底がないか」

■ 最終報告

三月七日午前零時以降、計測器は停止したとされている。三浦健次郎が現場で発見されたとき、彼は海中ではなく海岸線上に横たわっていた。しかし潮位感知器のデータによると、彼のいた地点の海水面は通常より約二.一メートル低く保たれていたという記録が残されている。

これは異常である。彼がいた場所には水深はあったはずがないからである。