私が引越し先で困ったのは、廊下の壁に小さな数字が書いてあったことだった。3階右折の扉の一つ一つ。

玄関を開けた瞬間、番号が震えて見えた。「402」の「0」だけ縦長で、どうにも歪んでいる。

管理会社の人に聞いたら、「前の入居者が自分でつけた番号だ」という。誰かの生活痕に過ぎない。だが数日後、私は廊下を歩いていると奇妙な気づきがあった。

「402」の数字に血のようなシミが滲んでいる。濡れていない。触っても色は落ちない。

そして次に気づいたのは。4階に行くと数字がない。3と5はあるのに、4だけが空白だった。「空室だからつけられていない」と言う大家。だが私が見たかったのは「部屋番号」ではなく、廊下に付けられた「数」そのものだった。

毎晩数字が減っていく。最初は「12」「10.5」など少数が廊下の隅に小さく書いた後、朝には消えている。減るのは数字ではない、マンションの住人数のようだった。

ある夜、私は深夜3時に廊下に出た。「1」という数字だけで廊下が埋め尽くされていた。まるでカウントダウンのように。

壁から指紋が聞こえる。

4………→

「4」という数字が廊下を這っていく音がした。まるで足跡を残して歩いているような音。階段の手すりまで達すると、次の朝にはすべての部屋から人が行方不明になっていた。「空室」ではない。「消えた」のだ。

管理人の男性は、ある朝突然数字を数えることをやめた。廊下の隅に「1」と書いたまま、その日に退職届を出したそうだ。

私はまだ402に住んでいる。だが今日は壁が泣く音がする。窓から数えると、マンション外にもう一つ建物が並んでいた。「新しい」のではなく、「見えていなかった」のだなとわかった。

今では毎日数字が減る速さが早くなっている。来月の1日には「0」に戻る。その時何が残るか私にはわからない。

ただ廊下の隅で、指紋のように小さく「5」と書いてあることを確認したのだった。減ったのではなく、減ると見せかけて戻ってきていた。「数え直す」のだと。