3階の住人がいない3階で聞こえる足音
2026年08月16日
上の階から聞こえる「ドス、ドス」という音
僕が今住んでいるアパートは、築22年の鉄筋コンクリート、全16戸、5階建ての集合住宅だ。 3階の角部屋を借りて、一人暮らしを始めてからちょうど8ヶ月になる。
最初は「古い建物だから仕方ないな」と思っていた。 毎日夜中2時〜3時頃、天井から「ドス……ドス……」という重い足音が聞こえるのだ。 靴を履いたまま歩いているような、コンクリートを踏みしめる音が、はっきりと響いてくる。
「上の階が2階なら、僕の上は4階だな。夜更かししてるんだな」 そう思っていた。
最初の違和感
違和感を覚えたのは、引っ越して3ヶ月目のことだった。 夜中、足音が止んだあと、なぜか「ため息」が聞こえた。 天井のすぐ上から、はっきりと、深く、長いため息が。
「……誰もいないのに」
そう呟いた瞬間、足音がまた始まった。 ドス、ドス、ドス。 僕がベッドから起き上がるのに合わせて、足音も止まる。
大家さんに聞く
翌日、大家さんに事情を話した。 「天井の足音ですかあ……3階の上は4階ですけど、4階は空室ですよ。去年の末から入居者いないんです」
脳内が白くなった。
「じゃあ、僕の上には……?」 「ええ、4階は空室です。天井裏もあるんですけど、物入れで入れないようになってますし」
録音してみる
その夜、スマホの録音アプリを天井に向けて置いて寝た。 翌朝、再生する。
2時17分。 ドス、ドス、ドス。 そして、ガラスを爪で引くような音。 天井の隅で、何かが「引っ掻く」音。
そのあと、足音が近づいてくる。 ドス……ドス…… そして、録音の最後、マイクのすぐ上で、はっきりと声が聞こえた。
「見つかった」
天井を覗く
その瞬間、僕は飛び起きた。 天井の換気口——掃除のためにたまに外すあの小さな蓋——が、わずかに開いている。
閉じていた。昨日も閉じていた。
手が震えて、蓋を外した。 暗い穴の中に、スマホのライトを向ける。 天井裏の物入れには入れないはずの空間に、何かがあった。
埃にまみれた古い段ボールの山。 その中に、新しい靴の痕跡が一つ。 僕が今履いているのと全く同じタイプの、スニーカーの靴底の模様。
次の日
次の日、大家さんに伝えたら、黙って天井裏の蓋を閉めた。 「大丈夫ですよ。たぶん野良猫が……」
でも知ってる。 猫が靴を履くわけがないって。
今
今日も夜中2時。 ドス、ドス、ドス。
でも、今日は違う。 足音が、僕の部屋の中に入ってきた。
天井からではなく、押入れの奥から聞こえる。 押入れ——僕が毎日開けている押入れ——の奥から、ドス、ドス、ドス。
押入れの扉が、ゆっくりと開き始めた。
この話、知人A(29歳、男性、東京都内在住)から直接聞きました。現在も同じアパートに住んでいるそうですが、足音は止んだそうです。「天井裏に誰かいるんじゃないか」って大家さんを呼んだら、「何もいなかった」って。でもAは言うんです。「でも、靴の痕跡は消えなかった」って。