天井の隙間

知人の話だ。最初は「また集合住宅の音問題か」と笑い飛ばしていた。

彼の名前(仮称)を佐藤とする。32歳、都内某区のマンションに一人暮らし。引っ越してきてから三ヶ月が経ったある夜のことだった。

佐藤は夜更かしが趣味で、深夜の2時過ぎまでゲームをしていた。その時だ。

天井から、カサッ、カサッという音が聞こえた。

「上階の人が歩き回ってるんだな」

そう思い、ゲームを続けた。しかし音は止まない。まるで、天井を這うようにゆっくり移動していく。

「……マンションなのに、なんで歩行音がこんなに聞こえるんだ」

集合住宅の天井は、思ったより薄いのかもしれない。そう考えていた。

しかし、その夜から毎晩、同じ音がするようになった。正確に深夜2時15分頃から始まる。カサッ、カサッ。天井を這う音。

佐藤は大家さんに連絡した。

「上階の住人に、深夜に歩き回られないように言ってもらえないでしょうか」

大家さんは翌日、上階の住人を訪ねた。戻ってきた大家さんの表情が、おかしかった。

「上階のお宅、もう半年空室なんです。前の入居者が退去して、新しい入居者が来るまで、ずっと空いてるんです」

佐藤は信じられなかった。

「じゃあ、誰の足音なんだ」

大家さんは黙って、去っていった。

それから一週間。

佐藤は夜中、天井を見上げながら寝ていた。カサッ、カサッという音が、また始まった。

そして、いつものように天井を這う音が、次第に佐藤のベッドの真上まで近づいていく。

止まった。

その瞬間、天井の換気口から、何かが覗いているのが見えた。

暗闇の中で、白い目が、佐藤を見つめていた。

佐藤は叫び声を上げた。

その夜以降、換気口は塞がれていた。大家さんが「安全対策」と言って。

でも佐藤は知っている。

換気口から覗いていたのは、人間だったってことを。

上階が空室だってことを。