朝方、自動車を走らせていると、いつの間にか雨に襲われた。

深夜二時半過ぎか、都内のある病院から帰宅していたところだ。運転席には疲れがじょりっと乗っていて、ハンドルを握る指先だけが生きている気がした。雨の夜道は白く濁る。ワイパーが左右に一秒間に一度、決定的な空白を拭く。

その途中だった。「地下三階へ」「P3」と書かれた案内標識が見えなかったかと思ったら見えたのは、すでに降り始めた頃だ。

近所に駐車場がないので、病院の地下に車を置くのだ。地下二階まで来て、右折する。カーブしたランプを下っていって、また次の曲がり角。「空」。

四台分の空白があった。一つ目と二つ目の間に白線が引いているから、これは三台目だろうと思ったら、なぜか白線の先まで延びていた。

おかしいなと思って止まった。ブレーキを緩め、バックミラーを見る。後ろには誰も来ていない。「P3」と書いた看板の先に、白線を引いた枠が五箇所、ずらりと並んでいる。

病院の駐車場に五台の区画があるなんて覚えてなかったし、地下二階の看板の下に「P2-5」のような表示もないはずだ。

スマホでカメラを撮った。現像画面に出たのは、白線が四箇所だけだった。

少し動いた心持ちになる。病院は四階建て、地下は二までしかないと言っていたっけと確認するためにフロントの受付に電話をかけた。「はい地下三階ですか。駐車場ですが」。

「ありませんよ。地下は二階です。」

その夜、車を置いて帰ったのは仕方なかったが、明日の朝には白線が七つになっていると予想した。あるいは、四つのままだったかもしれない。

翌朝戻ってくる。雨は止んでいて、外気温が冷たく肌を刺した。「P3」という看板が少し傾いていることにまず気づいた。白線。五箇所。昨日と変わらず。

だが、そのうちの一つにタイヤ痕があった。まるで今朝誰かが入ってきて出したばかりの、まだ黒いゴム跡だ。

誰も来ているはずがないと思うのは不合理かもしれない。駐車場は二十四時間開いているし、夜中に病院に来る客もいる。

ただし病院には七台分の駐車区域しかないということも知っているべきだろう。「P3-7」と表示すべき看板に「P3」としか書かれていないことは不自然な事かもしれない。(四階建て病院に地下三階はない)

私は三日月の月が空から覗いているのに、もう一度車に乗ったのが、間違いだったと知るのはまだ先のことになる。

白線の一つには、タイヤ痕が残っていた。

その夜、私の車は止まった。白線の枠を占拠した。そして外に出た瞬間、背後に残る車が白線の外側にずらしきれているのを確認するまで私は気づかなかった。

「おかしい」。そう云ったときだけ。

地下三階の駐車場に、誰かが留まっているのは私だけではなかったから。</s>

P3 5 parking slots 地下三階 — no sign above says "B3"