渚の記録簿
2026年07月21日
海辺のパトロール担当・田中からの回収文書より
「今日で47回目」
そうメモしたページは、すでに色が剥げて手触りも粗い。私はこの海岸での巡回を始めてもう2年以上になる。毎朝6時、同じルートだ。地元では『田中さんなら安心』と評されるが、実際には誰かがやらなければいけない仕事だった。その仕事に私が選ばれるようになった理由について、わたし自身も正確には把握していない。
記録簿: 第1〜30日 目
最初の1ヶ月は慣れだ。波の様子を眺めながら歩き、時折ゴミ拾いをして過ぎる。ある朝潮風がひどく、「今日は休み」と言った翌日、海はものすごく荒れていたと後で知った。その時初めて気づいた——「休むか休まないか」の判断は、実は単なる偶然ではなく何か他者が記録しているかのようだった。
記録簿: 第45日目*
1.0km地点の岩場で異物を発見した。形状不詳、黒色、約3cm四方。表面は滑らかだが触れてみると硬質が含まれているのかもしれなかった。「見つけた」と地域チャットに送信すると一切レスポンスなし。漁業組合のグループかただのプッシュ通知か判別つかないまま、その日以降返信が来なくなったことに気づくのは何日後だったか思い出せない。
記録簿: 第73日目*
今日岩場からの回収物を整理した。「第12号」から始まるリストがありながら12, 15, 20番だけが別の場所に保管してあったと知るが、誰も正確に覚えていない。私が整え始めたのは「同じ所にあれば管理しやすい」というだけだったが、伝える相手がなく結局一人で処理してしまった。誰にも相談しなかった理由が気になっていた時期もあった。
記録簿: 第98日目*
今日は何故か1.5km分以上歩いてしまい戻って来なくなったという説明が残されている可能性が高い。「海辺に倒れたのか」「何かを見たのか」判断不能な空白が続いた。起きたら手元に小さな砂粒があり触れれば硬いものが混じっていた。それは「第689号」と呼ばれるようになった。
記録簿 末尾ページ(破損)
“……今日で47回。岩場を歩きすぎたので戻って来なかったかもしれません。何かを見たのかもしれません。見つけたものは全部持ち帰ることで処理します。もし見つけた人がいたらその場で確認してください。もう遅いかも知れませんが——”
注: この記録簿は発見後行方不明となり、対象物・人物に関する記載も曖昧なまま多数の疑問を残している
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