深夜のコインランドリー、見知らぬ洗濯機で回っている洗濯物

これは自分の話だ。

去年の十一月、東京・中野区の古いアパートに引っ越して二ヶ月目のことだった。部屋に洗濯機がない物件で、徒歩四分の場所に二十四時間営業のコインランドリーがあった。便利だった。毎週火曜日と土曜日の夜、十時頃に洗濯を持っていくのが日課になっていた。

そのランドリーは道から少し段差を下った場所にあって、入り口は自動ドア。中は白っぽい蛍光灯で明るく、洗濯機が左右に四台ずつ並んでいる。乾燥機が四台。隅に折りたたみテーブルがあり、隅の隅にゴミ箱。それだけのシンプルな作りだった。

十一月のある土曜日のこと。僕は夜十一時頃、ランドリーに入った。平日の残業で疲れきっていたから、さっと洗濯をまとめて乾燥まで済ませたい。平日はそれほど混んでいないのに、この日は予想に反して人がいた。入口を入ると、奥の洗濯機で女性が洗濯物を回している。三十代くらいか。もう一人、入口の近くの乾燥機の前でスマホを見ながら立っている男性。

「あ、すみません」

僕はそう言って、入口から一番遠い左側の洗濯機——六号機——を開けた。中に自分の洗濯物を入れて、洗剤を入れて、コインを入れて、スイッチを押す。水が流れる音。いつもの音だった。

乾燥機も七号機に入れて、五十枚のコインを投入。乾燥が始まる音も、どこかでよく聞く音だ。

「あと四十分かな」

僕は折りたたみテーブルに座って、スマホを操作しながら待った。女性が去り、男性も二十分ほどで帰っていった。店内は僕一人になった。

その時だった。

洗濯機から、変な音が聞こえたことに気づいたのは、五分後くらいだった。

六号機の洗濯機から、水が流れる音がしない。代わりに、洗濯物が叩かれる音——バタン、バタン——が聞こえている。でも、水が入っていない洗濯物があんなに大きく跳ね回るはずがない。

「おかしいな」

僕は立ち上がり、六号機に近づいた。覗き窓を見ると、洗濯物はちゃんと入っていて、水もたまっている。ちゃんと回っている。

でも、音がおかしい。水に濡れた洗濯物が叩かれる音ではなく、乾いた布がコンクリートに叩きつけられるような、硬い音だった。

「機械の故障かな」

そう思って、もう一度テーブルに戻った。スマホの画面を見ているふりをして、反射鏡的に洗濯機の方を見やる。

六号機の洗濯機の音が、止まった。

そして、七号機の乾燥機の方から、洗濯物が跳ね回る音が聞こえた。乾燥機の中なら、洗濯物が叩かれる音はおかしいことではない。でも、七号機の乾燥中の洗濯物の跳ねる音——それが、さっき六号機で聞いていた音と、完全に同じリズムだった。

バタン。バタン。バタン。

間隔も、強弱も、同じだった。

「気のせいだろう」

そう自分に言い聞かせて、十分ほど待った。六号機の洗濯が終わり、ピピピピ——という終了音を聞いた。僕は洗濯機の前に行って、扉を開けた。

中に入った洗濯物——白いシャツ、黒のパンツ、下着——は、ちゃんと濡れていた。水で重たく、冷たかった。

でも、乾いていた。

洗濯物の表面——特に、シャツの胸の部分——が、水滴一つなく、完全に乾いていた。ランドリーの中の湿度が高い環境で、洗濯直後の服が、わずか三十分で乾くはずがない。

「何かの間違いだ」

僕は洗濯物を取り出し、七号機の乾燥機に入れた。乾燥が始まる。待っている間、ふと六号機の洗濯機を覗き込んだ。

洗濯機の隅に、水滴が一つ、落ちかけていた。

水滴は、ゆっくりと、ゆっくりと、地面に向かって落ちていった。

でも、洗濯機の中には誰もいない。扉は閉まっている。

水滴が床に落ちる音——ポタ——が、店内に響いた。

僕はその日以来、そのランドリーには行っていない。