団地のゴミ捨て場で、毎晩同じ音が鳴っていた
2026年08月20日
毎晩2時に鳴る、金属音が止まらなかった
僕がこの団地に入ったのは、去年の春のことだった。
築40年の大型団地。駅から徒歩15分、家賃は都心としては破格に安かった。でも、その安さには理由があった。
団地の裏手にあるゴミ捨て場。コンクリートの壁に金属製の扉が一つ。扉には「廃棄物処理場」と書かれた看板が錆びて下がっていた。
引っ越して二週間目。毎晩同じ時間に目が覚めるようになった。
深夜2時ちょうど。
ドカン、ドカン、ドカン。
金属が金属を叩くような音。重たいものを引きずる音。
最初は近所の子供のいたずらかな、くらいに思っていた。でも、毎日同じ時間。毎晩同じリズム。
引っ越して一ヶ月が経った頃、夜中の2時にふとベランダに出た。
ゴミ捨て場の扉が開いていたのだ。
中からは暗い。明かりはついていない。でも、中は空いている。団地の管理人さんがそう言っていた。
扉の隙間から、白く細長い影が伸びていた。
人間の影だ。
でも、中に誰もいない。
その夜、僕はベランダからゴミ捨て場の中を覗き込んだ。
コンクリートの床。隅に積まれた廃棄物。壁にべったりと剥がれたタイル。
そして、床の中央に、一本の棒のようなものが転がっていた。
金属製。長さ約60cm。先が丸くなっていて、光っている。
何の部品だか分からない。
でも、よく見てみると、その棒の先には、黒い塊がくっついていた。
乾いた血。
次の日、管理人さんに話を聞いた。
「あのゴミ捨て場、昔は別棟だったんだよね。40年前に解体して、ゴミ置き場にした」
「40年前に、あの場所で何かあったんですか?」
管理人さんは少し黙って、それから言った。
「隣に住んでいたおばあさんが、亡くなったんだ。一人暮らしで、ごみ捨て場に遺体を隠そうとしたんだけど、見つかった」
「遺体は?」
「見つからなかった」
管理人さんはそう言って、苦笑いして去っていった。
その夜も、2時に目が覚めた。
ドカン、ドカン、ドカン。
でも、今回は違った。
金属音をかき消すように、低い唸り声が聞こえた。
人間の声ではない。でも、声帯が震えている音はする。
ベランダに出た。
ゴミ捨て場の扉は、今度も開いていた。
そして、床の中央に、あの金属製の棒が立っていた。
垂直に。
棒の先には、黒い塊がくっついていた。
乾いた血。
そして、床に、水滴のようなものが、一筋落ちた。
壁には、指で書いたような線が、いくつかあった。
縦に一本。横に三本。
何のマークだか分からない。
次の日、警察を呼んだ。
警察官がゴミ捨て場の中を調べていた。
「この指の跡、誰が書いたんですか?」
管理人さんが言った。
「誰もない。毎日、夜中に音が鳴るんだけど、誰もいない」
警察官が床の水滴を採取していた。
「これは?」
「水滴です。でも、今日は雨が降っていません」
その時、警察官が言った。
「これ、血かもしれませんよ」
今も鳴っている
引っ越して半年。
今でも毎晩2時に目が覚める。
ドカン、ドカン、ドカン。
ゴミ捨て場の扉は閉まっている。
でも、夜中にベランダから覗くと、扉の隙間から、白い光が漏れている。
中は暗いはずなのに。
そして、床に、黒い塊が一つ、転がっている。
乾いた血。
毎晩、同じものが現れる。
管理人さんはもう辞めた。
「この団地、やめといた方がいいよ」
そう言って、去っていった。
今も鳴っている。
毎晩2時に。
ドカン、ドカン、ドカン。