団地のゴミ捨て場

毎晩2時に鳴る、金属音が止まらなかった

僕がこの団地に入ったのは、去年の春のことだった。

築40年の大型団地。駅から徒歩15分、家賃は都心としては破格に安かった。でも、その安さには理由があった。

団地の裏手にあるゴミ捨て場。コンクリートの壁に金属製の扉が一つ。扉には「廃棄物処理場」と書かれた看板が錆びて下がっていた。

引っ越して二週間目。毎晩同じ時間に目が覚めるようになった。

深夜2時ちょうど。

ドカン、ドカン、ドカン。

金属が金属を叩くような音。重たいものを引きずる音。

最初は近所の子供のいたずらかな、くらいに思っていた。でも、毎日同じ時間。毎晩同じリズム。

引っ越して一ヶ月が経った頃、夜中の2時にふとベランダに出た。

ゴミ捨て場の扉が開いていたのだ。

中からは暗い。明かりはついていない。でも、中は空いている。団地の管理人さんがそう言っていた。

扉の隙間から、白く細長い影が伸びていた。

人間の影だ。

でも、中に誰もいない。

その夜、僕はベランダからゴミ捨て場の中を覗き込んだ。

コンクリートの床。隅に積まれた廃棄物。壁にべったりと剥がれたタイル。

そして、床の中央に、一本の棒のようなものが転がっていた。

金属製。長さ約60cm。先が丸くなっていて、光っている。

何の部品だか分からない。

でも、よく見てみると、その棒の先には、黒い塊がくっついていた。

乾いた血。

次の日、管理人さんに話を聞いた。

「あのゴミ捨て場、昔は別棟だったんだよね。40年前に解体して、ゴミ置き場にした」

「40年前に、あの場所で何かあったんですか?」

管理人さんは少し黙って、それから言った。

「隣に住んでいたおばあさんが、亡くなったんだ。一人暮らしで、ごみ捨て場に遺体を隠そうとしたんだけど、見つかった」

「遺体は?」

「見つからなかった」

管理人さんはそう言って、苦笑いして去っていった。

その夜も、2時に目が覚めた。

ドカン、ドカン、ドカン。

でも、今回は違った。

金属音をかき消すように、低い唸り声が聞こえた。

人間の声ではない。でも、声帯が震えている音はする。

ベランダに出た。

ゴミ捨て場の扉は、今度も開いていた。

そして、床の中央に、あの金属製の棒が立っていた。

垂直に。

棒の先には、黒い塊がくっついていた。

乾いた血。

そして、床に、水滴のようなものが、一筋落ちた。

壁には、指で書いたような線が、いくつかあった。

縦に一本。横に三本。

何のマークだか分からない。

次の日、警察を呼んだ。

警察官がゴミ捨て場の中を調べていた。

「この指の跡、誰が書いたんですか?」

管理人さんが言った。

「誰もない。毎日、夜中に音が鳴るんだけど、誰もいない」

警察官が床の水滴を採取していた。

「これは?」

「水滴です。でも、今日は雨が降っていません」

その時、警察官が言った。

「これ、血かもしれませんよ」

今も鳴っている

引っ越して半年。

今でも毎晩2時に目が覚める。

ドカン、ドカン、ドカン。

ゴミ捨て場の扉は閉まっている。

でも、夜中にベランダから覗くと、扉の隙間から、白い光が漏れている。

中は暗いはずなのに。

そして、床に、黒い塊が一つ、転がっている。

乾いた血。

毎晩、同じものが現れる。

管理人さんはもう辞めた。

「この団地、やめといた方がいいよ」

そう言って、去っていった。

今も鳴っている。

毎晩2時に。

ドカン、ドカン、ドカン。