実は僕の話なんだけど、去年の冬、僕は都内某所の24時間営業コンビニで夜勤のアルバイトをしていた。

シフトは深夜2時〜朝10時。客の少ない時間帯だから、暇なら本を読んでもいい。上司にも「夜は静かにやってもらって結構」と言われていた。実際、客が来るのは1時間におよそ1〜2人。あとはひたすら退屈だった。

店には8台の防犯カメラがついていて、レジの横に小さなモニターが4画面表示で設置してあった。監視カメラの映像を見ること自体が仕事になるわけじゃないけど、退屈しのぎに occasionally チェックすることはあった。

ある日のこと。深夜3時47分頃。

モニターをチェックしていたら、あるカメラの映像に目が止まった。それは店内の隅に設置されたカメラで、レジの背後、棚と棚の間の通路を映していたものだ。

その映像に、人が立っていた。

白衣を着た人物が、棚の間に背を向けて静止している。顔はカメラのアングルで見えない。ただ、立っているだけ。動いていない。

「……誰か入ったな」

僕はレジから出て、その通路まで行った。

そこには誰もいなかった。

通路の幅は80cm程度。棚の隙間を通り抜けるには無理がない広さ。にもかかわらず、誰もいない。窓も施錠してある。扉のベルも鳴っていない。

「もしかして、モニターの問題か?」

そう思ってレジに戻り、もう一度モニターを見た。

そのカメラの映像には、まだ白衣の人物が立っていた。同じ姿勢で、同じ場所で。まるで止めた映像を見ているようだった。

僕は背筋が凍るのを感じた。モニターに向かって「いるか」と聞いた。返事はない。モニターの中の人物は、動こうともしない。

「うせ、ってことか……」

僕はカメラの方向を向いて、「もしいるなら、出てこないで。監視カメラ見てるから」と言った。自分でもバカなことをしていると思った。

その時だった。

モニターの中で、白衣の人物がゆっくりと首を動かした。

カメラの方を、向いた。

顔は見えなかった。カメラのアングル上、顔が映る位置にはない。でも、首の動きは明確だった。僕の方を向いている。

僕はモニターから目を離した。レジの後ろに回って、再びその通路に行った。

誰もいない。

そしてモニターを見ると、白衣の人物の姿は消えていた。その代わりに、別のカメラの映像に、奇妙なものが映っていた。

レジの真上に取り付けられたカメラ。その映像に、レジの向こう側――つまり僕の背後に、白衣の人物が立っていた。

振り返った。

背後には誰もいない。天井のカメラの取付部材には、何かもたれかかっている形跡もない。

でもモニターを見ると、白衣の人物は確実にレジの背後にいた。指を、モニターに向けて、ゆっくりと上げている。

一枚の指が。

僕はその夜、早退した。理由を聞かれても、「体調が悪い」としか言えなかった。

その後、何日か休んだ。そして店に戻ったら、上司に言った。「あの、レジの後ろのカメラ、正常に動いてます?」

上司は不思議そうに言った。「うん、全部正常だけど。どうした?」

「その……レジの真上のカメラ。あそこ、死角にならないんですか?」

上司が笑って言った。「おかしなこと言うなよ。あそこは一番よく見える場所だぞ。お客さんも店員さんも、全部見えるよ」

僕は黙った。

だってモニターで見たものは、真逆だったから。

レジの真上のカメラは、僕がレジの後ろに立っている時、僕の背後を映すはずがない。上から下を映すカメラに、背後に立つ人物は写らない。

なのに写っていた。

それ以来、そのコンビニで働くことはなくなった。別の店舗に配属されたのだと説明された。

ただ、一つ気になることがある。

もしそのカメラの映像が本当なら、白衣の人物はどこからレジの背後に回ったのか。

僕が通路に行った時も、レジの背後に戻った時も、誰もいなかった。

それとも、カメラは本当のことを映していたのか。

僕が振り返った時、背後にいないのは、カメラが映している方が「現実」だからなのか。

今でもたまに、コンビニの防犯カメラの赤いLEDの点滅を見るたび、あの時のことを思い出す。

防犯カメラの映像

あの人物は、今もあのカメラの中にいるのか。

それとも、次の店員の背後に立っているのか。