友人のAは、大学卒業後、東京・世田谷区の住宅街で小型コンビニ「セイコーマート」に正社員として入り、レジ業務を担当していた。

開店二十五時間制の店舗で、深夜二時〜朝八時のシフトに週三回入っていた。

友人は言う。

「最初は些細なことだと思った」

深夜三時頃、いつものようにレジに立っていた。店内の様子は天井隅に設置された四つの監視カメラで確認できる。客が来れば店内のスピーカーから「ただいまいらっしゃいます」という案内が自動で流れる。

その夜、案内が鳴った。

「ただいまいらっしゃいます」

レジ画面のモニターには、店内の映像が四分割されて表示されている。そのうちの一枚に、白いセーターを着た女性が、惣菜コーナーの棚に手を伸ばしている様子が映っていた。

友人は「あ、いらっしゃいませ」と声掛けしようとした瞬間、ふと気づく。

店内に誰もいない。

友人はゆっくりと店内を見渡した。入り口のドアは閉まっている。惣菜コーナーの棚の前には、先ほどまで女性が立っていたはずの場所には、誰もいない。

「あの映像は……」

もう一度モニターを見ると、白いセーターの女性は、今度は飲料品の棚の前で、ペットボトルを手にしている。画面の隅に設置された時計には、実時間の三時四分が映っている。

友人は震える手で店内のインターホンボタンを押した。

「いらっしゃいますか? 大丈夫ですか?」

返事はない。

モニターには、白いセーターの女性が、ゆっくりとレジ方向を向く様子が映っていた。顔ははっきりとは見えないが、目が画面の方向をじっと見つめている。

友人は慌てて店長の携帯電話に電話した。

「店長、店内に……誰かいると思います」

店長は「またか。監視カメラの映像がずれているだけだ」と笑い飛ばした。

その夜から、友人は深夜シフトを降りた。

「でも、その後も店長に言われた」

「映像がずれているわけがない。あの夜、カメラの時刻表示は三時四分だった。でも実際は三時十七分だった」

「つまり、カメラに映っていた時間は、現実に流れていない時間だった」

友人は最後にこうも言った。

「白いセーターの女性は、もう一度モニターに映らなかった」

「でも、その後、店長から聞かされた話がある」

そのコンビニの建物は、かつて診療所だったという。

夜間診療の頃、患者の一人が店内の惣菜コーナーのあった場所で、誰かに襲われた事件が起きていた。

事件の犯人は捕まらなかった。

友人はその後、コンビニ業界を辞めた。

「あの映像が、今も店内に流れているのか」

「それとも、別の場所で」