実録。知人の話です。

知人の男性(28歳、当時)は大学卒業後、IT系企業に就職した。新入社員研修が終わり、一人前の業務に就く前の待機期間——要するに「暇」。そこでアルバイトとして応募したのが、駅近くの24時間営業のコピーショップだった。

「朝まで放置できるし、時給もいいし」——そんな軽い気持ちで始まった仕事だった。

シフトは夜中の22時から翌朝6時。店内にはA3対応の大型複合機が3台、A4用のデスクトッププリンターが2台。通常、夜間は客がほとんど来ないので、掃除でもしながら待機するだけの日々だった。

11月の半ばのある深夜、知人が2階の待合席でスマホをいじっていたら、1階から「カチカチ……ガガガッ……」という機械の音が聞こえてきた。

プリンターが動いている。

夜中に自動で印刷が走る——そんな設定はしてあったっけ?と知人は階段を降りて1階を見た。

複合機の液晶パネルが点灯しており、用紙トレーから白紙が吸い込まれていく。印刷物の端が少しずつ顔を出している。

「誰か今、印刷した?」

店長に電話した。店長も「そんな設定はしていない」と言う。

知人が印刷物の完成品を手に取ってめくると、そこには真っ白な用紙が何十枚も重なっていた。用紙の端には、かすかにインクが付いている。しかし文字も画像も、何も印刷されていない。

ただの白紙。

しかし用紙の端のインクは、確かにインクジェットプリンターのものだった。

次の日、知人は同じ時間帯に働いていた後輩に話をした。

「あのプリンター、最近おかしくない?夜中に勝手に印刷を始めて、白紙が出てくるんだ」

後輩は「俺の時はそんなことなかったよ」と言った。

知人は「じゃあ俺のシフトのときだけ?」と聞くと、後輩は少し間を置いてから「……そうかも」と言った。その時、後輩の表情が明らかに曇っていた。

「なんでも、俺がいない間にプリンターから音がするって、新人の女の子に言われたことがあるんだ」

「でも、俺が確認に行っても、何もなかったって」

知人はその場で「もうそのシフトは辞めたい」と思いながら、でも「そんなのただの機械の故障だ」と自分に言い聞かせた。

しかしその次の夜、知人が待合席でスマホをいじっていると、また音がした。

「カチカチ……ガガガッ……」

1階の複合機が動き始めた。

知人は階段を上がりながら、ふと気づいた。

このコピーショップの複合機は、ネットワーク接続されていない。USBメモリからの印刷も可能だが、LANケーブルは抜けていた。

誰が、何を印刷させようとしているのか。

知人は1階に降りて、複合機の電源を抜いた。液晶パネルが消えた瞬間、用紙トレーから白い紙が、ゆっくりと——まるで吐き出されるように——出てきた。

完成品をめくると、今度は白紙ではなかった。

用紙の端に、かすかに黒い線が描かれていた。

それは、階段の形に似ていた。

1階の待合席から1階への階段の形に。

知人はその場を後にした。その夜から、そのコピーショップでのアルバイトを辞めた。

知人は今でも、白紙に描かれた階段の画像が何枚あったのか、正確には覚えていないと言う。

「数えたくなかったから」

コピーショップのプリンター