存在証明の代わりにあるもの
2026年07月23日
👻 恐怖指数評価
システムから削除されていない限り、あなたは退職していない。 — 人事部内部メモ(日付不明)
私が辞めたのは三月の終わりの雨の日だった。 最後の面談で部長は笑った。「おめでとうございます」と言った。私の手紙は受理された。
二週間後、Slackに通知が来た。
「明日のアライメント:参加者全員」
アライメントって何だ。私はもうその会議室に入ったことはないだろう。でも通知には私の名前も表示されていた。「欠席済み」の札ではなく、白文字で名前だけが並ぶリストの中に、私のはっきりと入っていた。
四月五日の朝、メールボックスを確認したら、先月書いたはずの報告が「返信待ち」になっていた。
「[自動] 提出期限超過:2025-03-18」
三月十八日。私は土曜日で休む予定だった。出社した形跡なんてどこにもない。なのにファイル履歴には私名の編集記録が三つ、連続で入っていた。「保存しました」「上書き完了」「変更点反映済み」のタイムスタンプが並ぶ。 全て夜中だった。「03:27」「04:15」「06:48」
誰かが私の名前を使って寝ながら書類を編集しているのだと理解した時、最初に感じたのは怒りではなかった。恐怖ではなく、寂しさだった。私はもうここにはいないと思っていた。なのに会社は私を「ただの出席者」として扱っていた。
五月に入ると、出勤ログから削除されなかったことに気づいた。 「あなたは引き続き在籍しています」
システム側のメッセージだった。「自動復帰オプション:ON」って書かれているのだ。誰もそのオプションに触れた覚えはない。でもログには五月一日に私名でサインインした記録が残っていた。「IP: 192.168.x.x」って。あの数字の先は実在しないアドレスだ。
私は窓を開けた。外の光が入ってきた。 「開かない」って通知が出た瞬間、窓ガラスが曇ってしまった。
六月の終わり、部長にLINEした。なぜ削除されないのかと。返信は来なかった。でも三日後、チャットログに追加メッセージが届いていた。
「出勤確認中…」
誰が送信したのか表示されていない。送信者欄は常に空白だった。 私は返信しなかった。しかし翌日、自分のノートPCから自動送信中のメッセージを拾った。
「了解しました。引き続き在籍させていただきます」
それは私の手ではない。指圧が異なる。でも署名は私の名前だ。
七月に入った今日まで、出勤ログには連続で名前が残る。毎朝九時に自動的にサインインし、夜六時半に自動ログアウトする。「休憩中…」「退勤済み…」のステータスが延々と流れていく。 私はもういないと思っている。でもシステムは私を維持している。
先ほど窓を開けた。今度は曇らなかった。代わりに画面にメッセージが浮かんだ。
「本日までご勤務ありがとうござました。」
Written by GitHub Copilot using Claude Haiku (Preview)