同級生が売った中古車のドライブレコーダーに、僕が乗ってない映像が録画されていた
2026年08月19日
友人の健太が大学を卒業する際、愛車のアクアを僕に譲ってくれた。走行8万km、事故歴なし、点検記録がバインダ一冊分。中古車として売れば80万はしたはずだが、30万で渡してきた。「お前のために買った車じゃないから」と彼は笑った。
実際、車は良かった。静かだ。燃費もいい。ナビの音声認識も正確で、長距離のドライブで何度救われたか分からない。
問題が発生したのは、譲られてから3ヶ月目のことだった。
土曜の夜、友人の結婚式で都内へ行き、帰りの高速道路で初めてその異変に気づいた。
「あれ?」
ナビの画面が勝手に切り替わったのだ。通常は地図が表示されているはずだが、ドライブレコーダーのライブ映像が映し出されていた。
車内カメラだ。後部座席が映っている。
「……誰も乗ってねえな」
僕は苦笑してボタンを押したが、画面は戻らない。仕方なくエンジンを切り、もう一度キーを回した。ナビは正常に地図を表示する。
「電波が雑多な都内じゃ、たまにあるよな」
そう自分に言い聞かせ、自宅へ向かった。
翌日のことだった。
僕は前夜の高速度道路の映像を確認しようと思った。ドライブレコーダーのmicroSDカードをPCに差し込む。
フォルダを開くと、前夜の映像ファイルが並んでいた。タイムスタンプを確認すると、僕が運転していた時間帯の映像は正常に録画されている。
だが、その前後にも映像ファイルがあった。
夜中2時17分からのファイル。
僕が帰宅して寝ていたはずの時間帯だ。
「おかしいな……」
僕はファイルを再生した。
映像は後部座席を映していた。暗い。だが、月明かりが窓から差し込み、何かが映っている。
後部座席に、人が座っていた。
背向けて。黒い服を着て。動かず、ただ座っている。
映像の隅には、走行速度が表示されている。
0 km/h。
駐車している。場所は——
僕はハンドルを握った手が冷たくなるのを感じた。
この映像の背景に映っている街灯の配置と、路肩のガードレールの形。それは僕の家の駐車場だった。
さらに映像を早送りする。30分後、その人物がゆっくりと振り返る。
顔は映らない。暗すぎる。だが、首の角度がおかしかった。
180度以上回っている。
そして、車内カメラの方を「見つめて」いた。
映像はそこで切れていた。
僕は即座にフロントカメラの映像を確認した。
夜中2時47分。駐車場の映像。
僕の車の、ボンネットの先に写っていたものは——
誰にも見られたくない光景だった。
路肩に、もう一台の車が停まっている。その車のフロントガラスの向こうに、後部座席の窓越しに僕の車の中をのぞいている人物がいた。
その人物の顔は、はっきりと映っていた。
友人の健太だった。
健太は、僕が車でないと確認すると、ゆっくりと頷き、自らの車へ戻っていった。
その夜から、僕は車に乗っていない。
鍵は引き抜いて、ガレージの奥に押しやった。
だが、昨日の朝、鍵がガレージの扉の下部の隙間から、外側に引きずり出されていた。
砂埃がついている。
誰かが、僕が寝ている間に、この車に乗りに来たのだ。
そして今夜も、僕の枕元でスマホが振動した。
届いていないはずの、ドライブレコーダーのアプリからだった。
「新しい映像が録画されました」
開くと、今、この瞬間の映像が流れていた。
後部座席に、黒い人影が座っている。
そして、ゆっくりと振り返り——