マンションの宅配ボックスで、夜中にチャイムが鳴る
2026年08月14日
実話。僕の友人・Kの話。
Kは東京・世田谷の2階住み。一人暮らし歴三年目。
Kの部屋の玄関には、標準的な宅配ボックスが備え付けられている。大きさは縦40cm、横30cmほどの箱で、ドアに番号錠がついている。Amazonやネットスーパーの配達に頻繁に使っていた。
ある日、Kは深夜二時半頃に起きた。
理由はない。ただ、ふと目が覚めた。
寝室からリビングへ歩くと、玄関のあたりに何かが響いている。
ピッ、ピッ、ピッ——
宅配ボックスのチャイム。
Kは立ち止まった。
「……配送? こんな時間に」
スマホを確認する。配達アプリの通知もない。
チャイムは三回鳴って止んだ。
次の瞬間、宅配ボックスのドアが、カチリ、と軽く開いた音。
Kは息を止めた。
ドアは半分ほど開き、また閉まった。
カチッ。
チャイムがもう一度鳴った。
「誰だ……」
Kは玄関へ歩み寄る。足音が自分以外に混じっている気がした。
ドアを開ける。
宅配ボックスのドアは、さっきと同じように半分ほど開いている。
中は空だった。
Amazonの配達でもないし、ネットスーパーでもない。
ただ、箱の底に、一枚の紙が置かれていた。
Kが紙を拾う。
手書きのメモ。字は汚くて、でも読める。
「もう入りました」
Kは振り返った。
背後には誰もいない。
Kは紙を箱の中に捨て、ドアを閉めた。
その夜、Kは眠れなかった。
しかし、その後もチャイムは鳴り続けた。
毎晩、二時半頃。
ピッ、ピッ、ピッ——
三回鳴って、ドアが開き、閉まる。
Kは毎回確認する。
箱の中はいつも空。
しかし、四日目のある朝、Kは帰宅すると、玄関の宅配ボックスのドアが開いたままになっていた。
中を覗き込む。
箱の底に、先ほどのメモがもう一枚、置かれていた。
「二回目」
Kは叫んだ。
スマホでカメラを撮ろうとした瞬間、チャイムが鳴った。
ピッ、ピッ、ピッ——
ドアが開く。
Kはスマホを箱の中に突っ込んだ。
画面に映ったのは、宅配ボックスの内部。
狭い箱の中で、スマホの画面が暗転する。
その直後、箱の中から、自分の声に似た声が聞こえた。
「三回目」
Kはそれ以来、そのマンションを退去した。
新しい部屋には、宅配ボックスがない。
でも、たまに夜中に、チャイムの音がする。
もちろん、Kの部屋には宅配ボックスはない。
Kは思う。
「もしかして、箱の中に入ってしまったのは、僕の方かもしれない」