新築マンションの宅配ボックスに、誰も届けていない「配達済み」通知
2026年09月02日
配達済み、でも中身は空だった
私が今のマンションに引っ越したのは、去年の春のことだった。 駅まで徒歩十二分、築一年の新築マンション。 エントランスも廊下も白くて明るくて、とにかく清潔だった。
「これで宅配ボックス付きの部屋だ。もう届かないストレスとはおさらばだ」
そう思って入居したのを覚えている。
マンションの各階には、各戸ごとに宅配ボックスがついている。 外側から鍵をかけて、中へ荷物を投入できるやつだ。 配達員は配達完了ボタンを押すだけで、中身を確認することなく蓋を閉めることができる。
引っ越して一ヶ月ほどは、本当に便利だった。 仕事の帰りに届いた荷物を、開封することなく部屋に入れる。 雨の日に傘を差しながら、宅配ボックスに荷物を入れる。 そんな日常が続いた。
しかし、ある日のことだった。
午後十一時過ぎ、私はスマホで配送アプリを開いた。 「お買い物の配送が配達完了しました」
その瞬間、違和感が走った。
配送アプリのカメラロールには、宅配ボックスの蓋が閉まっている写真が自動的に保存されている。 しかし、その写真に写っていた蓋の隙間から、荷物の角が少しだけ覗いていた。
「あれ? ちゃんと蓋は閉まったっけ」
私は荷物が届いたことを確認するために、エレベーターを降りて一階の宅配ボックスまで行った。
ボックスの番号は102。 外側から鍵を開け、蓋を上げると——
中身は空だった。
写真に写っていた荷物の角も、中身も、一切存在しない。
「……え?」
首をかしげながら蓋を閉め、エレベーターに乗って部屋に戻った。 配達業者に連絡すると、「写真の通り、正しく配達完了しております」という返事だった。
その夜、私は特に気に留めなかった。 配達員の見間違いだろうと思った。
しかし、その次の日にも起きた。
午後三時頃、また「配達完了」の通知が来た。 スマホの写真を確認すると、またしても蓋の隙間から荷物が覗いている。
しかし、宅配ボックスを開けても、またしても中身は空だった。
三回目の配達完了通知が来たのは、三日後だった。 午後二時。私はその時、部屋の中にいた。
配送アプリのリアルタイム追跡を見ると、配達員が宅配ボックスの前に立って写真を撮っている。
しかし、その写真の写り方がおかしい。
配達員の手が、宅配ボックスの配達完了ボタンを押しているように見えた。 しかし、その指先が、ボタンを押し切れていない。
半分の深さで止まっている。
その瞬間、私は思った。
「もしかして、この宅配ボックスの蓋は、完全に閉まっていないのかもしれいない」
そして、さらに恐ろしいことを思い始めた。
もし蓋が完全に閉まっていなかったら——
配達員がボタンを押した瞬間、蓋がパチンと閉まる音がする。 しかし、中身は少しだけ浮いたまま。 外からは何も見えない。
そして、蓋の隙間から、誰かが中を覗けるかもしれない。
私は慌てて一階の宅配ボックスに戻った。 102号のボックスをじっと見つめる。
外側からは何も見えない。 しかし、よく見ると、蓋の下端に、わずかな光の漏れがある。
完全に閉まっていない。
そして、その隙間から、黒い影が、ゆっくりと外へと這い出ようとしている——
その時だった。
マンションのエントランスのインターホンが鳴った。
「もしもし——?」
インターホンの画面には、配達員ではなく、私の顔が映っていた。
私自身を、誰かが撮った写真だった。
部屋の中から。
宅配ボックスの蓋が、静かに、パチンと閉まる音がした。