宅配ボックスに手が届く
2026年08月13日
実録。友人の体験談。
彼女は一戸建てではなく、マンションの3階に住んでいる。一人暮らし歴は二年ほど。
毎週水曜と土曜に、食材や日用品をオンライン注文している。配達は基本「宅配ボックスへ」と指示を出すので、本人が家にいる必要はない。
「便利になったものだ」と、以前はよく笑って話していた。
ある七月の暑い日のこと。彼女は午後三時頃、洗濯物を干しながらスマホを確認した。
「宅配ボックスに配送完了」——Amazonの通知が来た。
いつも通り、帰宅して中身を確認するつもりで、彼女は夕方の雑用を始めた。
しかし、なぜか気になる。
配送完了の通知が届いたのが十五分前だ。十五分も経てば、中身の商品が箱の中で動いてもおかしくない。普通はすぐ確認するものだ。
「あとでいいや」
そう思って、彼女はキッチンで野菜を切り始めた。
その時、ふと耳に入った。
カサッ、カサッ——。
宅配ボックスから、布が擦れるような音がした。
彼女は包丁を置き、玄関の方へ向かった。
音は消えていた。
「風じゃないよね」
ベランダの窓は閉めていた。外付けの宅配ボックスは、壁に埋め込まれた金属製の箱だ。風が入る隙間などない。
彼女はまたキッチンへ戻った。
カサッ——。
今度ははっきりと、何かが箱の中で動いた音がした。
彼女は足が竦んで動けない。スマホの画面を握りしめ、配送アプリを開いた。
「配送完了」——配達員の名前、配達時間、写真付きの記録が残っている。
写真には、宅配ボックスの蓋が閉まっている様子が写っていた。
しかし、よく見ると、蓋の隙間から、白いものがはみ出している。
指——ではない。何か細長い、白いもの。
彼女は息を止めた。
その時、宅配ボックスの内側から、静かに、しかし確かに、音がした。
カチッ。
ロックが解ける音。
蓋が、自分から開いていく。
中の白いものが、ゆっくりと、外へ伸びてきた。
彼女は逃げることも、叫ぶこともできなかった。
その夜、彼女は実家に泊まった。
次の日、友人が再訪した時、宅配ボックスの中は空だった。
しかし、蓋の裏側には、何かが爪で引っ掻いたような、深い傷が複数刻まれていた。
「出ろ」
そう読むことができる傷だった。
彼女はそのまま引っ越した。
今でも、オンライン注文をすると、胸が締め付けられると言う。
あなたのマンションにも、外付けの宅配ボックスはないだろうか。