宅配ボックスに物が置いてあることに気づいたのは、火曜日の夕方だった。

一人暮らしを始めて三ヶ月。まだ慣れないことばかりで、宅配便の受け取りも毎回「不在票が入ってるかな」と不安になりながら仕事から帰る日々だった。だから、この日のことだ。

玄関のドアを開けると、宅配ボックスの扉が閉まっている。

いや、閉まっているのは問題じゃない。問題は、扉の隙間から、白い紙袋が覗いていることだった。

「あ、昨日の宅配だ」

そう思って紙袋を取り出し、中身を確認する。届いたのは、私の注文した文房具のセット。確かに届いてはいた。でも、なぜか違和感が残った。

だって、昨日は宅配便なんて一つも頼んでなかったから。

思い返すと、先週も先々週も、見覚えのない物が宅配ボックスに入っていた。お弁当箱のような箱、透明なビニール袋に入った謎の白い塊、さらには、小さく折られた新聞の切り抜きまで。

全部、私が頼んだ覚えのない物ばかり。

「でも、もしかして誰かが届けてくれたのかな」

そう考えていた。でも、友人も家族も、私に物を送るような関係の人はいない。

それから一週間。

水曜日の夜、私は宅配ボックスの音を聞いた。

リビングから玄関に向かって歩いていると、キッチンから「ガチャッ」という音がした。

「え?」

よく見ると、キッチンに置いてあったゴミ箱の蓋が少し開いている。中身を確認すると、蓋の下に、小さな紙切れが挟まっていた。

「明日の夕方に」

意味不明な言葉が書かれた、手帳を破ったような紙切れだった。

私はその夜、玄関のドア越しに宅配ボックスをじっと見つめながら、眠れないまま朝が来るのを待った。

木曜日のことだ。

朝、出勤前に確認すると、宅配ボックスに先ほどのゴミ箱の蓋と同じサイズの紙切れが挟まっていた。

「今日も」

今日は、朝の八時。

そして、金曜日。

夜、仕事から帰ってきて、玄関のドアを開けた瞬間、私は凍りついた。

宅配ボックスの扉が、開いていた。

中身を確認すると、そこには、昨日届いたはずの文房具のセットが入っていた。

でも、おかしい。

私が確認した時、確かに中身は入っていた。でも、その紙袋は、私が開けた跡がある、少し開いた状態だった。

そして、その紙袋の隣に、新しい物が一つ、置かれていた。

小さな、黒い靴だった。

私の靴の、全く同じもの。

サイズも、色も、傷の付き方まで。私が昨日、クリーニングに出して返却されたばかりの、その靴そのものだった。

「これは……」

その時、背後から、宅配ボックスの扉が閉まる音がした。

振り返ると、扉は完全に閉まっている。

でも、その扉の向こうから、誰かが中を覗いている気配がした。

いや、違う。

扉の隙間から、小さな目が、私を見つめていた。

そして、その目が、ゆっくりと、笑った。

「明日の夕方に」

手帳の紙切れが、私のポケットから落ちていた。

私は、その夜、そのアパートを飛び出した。

でも、次の日の朝、玄関を確認すると、また宅配ボックスに物が置いてあった。

小さな、子供の靴だった。

そして、その靴の下に、新しい紙切れが挟まっていた。

「今日も」


今でも、私の宅配ボックスには物が置いてある。

私が何もないと、自分で物を置いてくれるらしい。