宅配ボックスに、注文していない荷物が届いていた
2026年12月10日
知人が話していたことがある。一人暮らしを始めて三ヶ月目の冬の話だ。
知人は東京・世田谷の古いアパートに一人暮らしをしていた。二階の角部屋。大家さんが管理しているタイプで、大家さん自身はそのアパートの一角に住んでいるという、奇妙に近所付き合いが薄い物件だった。
知人が住み始めてすぐ、大家さんから言われたことがある。
「玄関の扉に宅配ボックスがついてるから、いつでも受け取っていいよ」
扉の横についていたのは、幅四十センチほどの金属製の箱。上から荷物を投入口に入れ、鍵を開けると下から取り出せる仕組み。知人はamazonをよく使うので、これは便利だと感じていた。
最初の二ヶ月は普通に過ごした。荷物は届くたびに受け取り、特に違和感はない。
しかし、十二月に入ったある夜、知人は変なことに気づいた。
玄関の前に立った時、宅配ボックスの投入口から、何か白いものが覗いていたのだ。
「え?」
知人は宅配ボックスの鍵を開けた。中に入っていたのは、小さな段ボール箱。差出人欄は白紙。宛名には、知人の名前が正確に書かれていた。
「これ、自分が注文したっけ?」
知人は思い当たらないので、そのままにした。たぶん誰かが間違えて入れたのだろう。
次の日、知人は amazon の注文履歴を確認した。そのサイズの箱を注文した覚えはない。
三日後、また宅配ボックスに物が届いていた。今度は中封筒。中身は、一枚の紙片だった。
「12月7日、23時14分」
日付と時刻が書かれているだけ。知人はその日、二十三時十四分に何をしたか思い出そうとしたが、特に記憶はない。寝室でスマホを見ていたはずだ。
知人は不安になり、大家さんに相談した。
「宅配ボックスに、見覚えのない荷物が届いてるんです」
大家さんは、少しの間黙ってから、こう言った。
「あ、そうだった? 鍵、ちゃんと閉めてますか?」
「はい、いつも閉めています」
「だったら、誰かが間違えて入れたのかもしれませんよ」
その夜、知人は玄関の前の廊下が気になるようになった。
次の日、また荷物が届いていた。今度はもう少し大きい箱。開けてみると、中からは、知人の古い写真が三枚出てきた。
知人が忘れていた写真だった。大学の卒業式の写真、友達との集合写真、家族写真。どれも、知人が「捨てたはずだ」と思っていたものだった。
知人は冷や汗を出しながら、大家さんに再び相談した。
大家さんは、今回は黙ってしまった。
その夜、知人は玄関のドアに耳を当てていた。二十三名時。廊下に足音はない。でも、宅配ボックスの投入口が、カチリ、と閉まる音が聞こえた。
知人はドアのスコープを見た。廊下には誰もいない。
しかし、翌朝、宅配ボックスにはまた新たな荷物が届いていた。
小さな箱ではなく、一枚の封筒。中身は、一枚のメモだった。
「もう少し、中身が増えるよ」
知人はその夜、玄関のドアの隙間から外を覗いた。廊下の電気がついている。でも、誰もいない。
次の日、宅配ボックスには何も入っていなかった。
知人は安心した。でも、その夜、知人は宅配ボックスの投入口から、ゆっくりと、白い手袋をはめた手が、ゆっくりと出てくるのを見た。
知人は叫び、玄関のドアを閉めた。
次の日、知人は大家さんに言った。
「宅配ボックスから、手が……」
大家さんは、黙って宅配ボックスの鍵を開けた。
中には、何も入っていなかった。
でも、箱の底に、一つだけ、小さな指紋が、付いていた。