夜中3時にインターホンが鳴り、監視カメラに宅配便の姿が写っていなかった話
2026年08月19日
夜中3時にインターホンが鳴り、監視カメラに宅配便の姿が写っていなかった話。
これを書いているのは僕、31歳のWebエンジニアだ。一人暮らしを始めて3年目になる。東京・世田谷のマンションの4階に住んでいる。
去年の冬、Amazonで機械鍵盤を買った。届いたのは平然とした段ボール箱で、何も不審な点はなかった。ただ、その後の出来事が、少しずつ、だけど確実に、僕の日常を歪めていった。
最初の出来事は、11月の中旬だった。
夜中3時14分。僕は眠りについていた。突然、インターホンの音が耳元で鳴って飛び起きた。
「……?」
枕元のスマホを確認すると、画面には「インターホン通話受信」の通知が浮かんでいた。間違えて押したのか、勝手に鳴っているのか。僕はインターホンの方を見た。
赤いランプが点滅している。
「誰だ?」
と、声に出しかけたが、何も返事がない。インターホン越しの静寂。ただ、モニターの画面には、ドア前のカメラ映像が映し出されている。
そこには、白い段ボール箱が一つ、床に置かれていた。
配送業者の姿は一切写っていない。
「……またか」
僕はインターホンを切り、もう一度寝つきを試みた。30分ほど経っただろうか。またインターホンが鳴った。
同じ時刻。3時14分。
モニターを見ると、また白い段ボール箱が、同じ場所に置かれていた。一つ目の箱は消えていた。
僕はスマホで玄関のドアのチェーンを外さず、インターモンのズーム機能をオンにした。カメラ映像が拡大され、箱のラベルが読み取れるほどに近づく。
配送業者の名前。「佐川」のロゴ。配達時間のスタンプが押してある。
でも、誰が持ってきたのか。
窓から外を覗いた。庭の街灯は点いている。コンクリートの通路には、足跡すらなかった。
次の日、僕は大家さんに相談した。
「大家さん、夜中にインターホンが鳴って、箱が届くんです。でも誰もいない」
大家さんは少し黙って、それから言った。
「……4階のベランダ、確認しましたか?」
「ベランダ?」
「前の入居者の方の物件で、同じことがあったんだ。ベランダの隅に、足場になる段ボールが積んであって、そこから部屋に入って、また出ていく。インターホンを押すのは、中の部屋からだった」
僕はその日の夜、ベランダを確認した。隅に段ボールの切れっ端が一つ、落ちていた。湿って、崩れかけている。
その夜もインターホンが鳴った。3時14分。
モニターには箱が一つ。でも今回は、カメラの隅に、かすかな影が写っていた。ベランダのガラスの反射だ。
人が立っていた。
顔は見えない。ただ、上半身が、ベランダの隅に立っていた。
僕はそっとドアを開け、ベランダに出た。冷たい風が吹くだけ。誰もいなかった。
でも、床に、水滴が一つ、落ちた跡があった。
次の日から、僕は玄関に監視カメラを設置した。夜間モード付きの、180度の広角レンズ。
設置して最初の週は、何もなかった。安心した。
でも、2週目の夜。監視カメラの録画を再生していたら、気づいたことがある。
3時14分。インターホンが鳴る0.5秒前、カメラの隅に、かすかな影が写っている。
それは、ドアの前ではない。
天井から、下がっていた。
僕はカメラを再度設置し直した。天井には何も付いていない。
その夜、インターホンは鳴らなかった。
でも、翌朝、玄関の床に、水滴が一つ、落ちた跡があった。
天井から。