デジタルカメラのオートフォーカス

妻の両親の七回忌があった。

妻の実家は神奈川県川崎市の郊外、田舎と街の境目といった場所だ。新幹線の駅からもほど近く、利便性は悪くない。ただ、周囲はまだ開発の手が及んでいない空き地が多く、夕暮れになると奇妙に静かになる。

七回忌の翌週、妻が「おじいちゃん、おばあちゃんとの写真、現像しようか」と言った。

「昔デジカメで撮ったんだっけ。スマホで撮り直せばいいのに」

「おじいちゃんが買ってくれたカメラだから。それで行きたい」

妻はそう言って、押し入れから古いデジタルカメラを取り出した。Canonのコンパクトデジカメ。妻が小学生の頃に祖父から貰ったものらしい。液晶画面はヒビが入っているが、電源が入る。

「今すぐやる?」

「明日の朝でいいよ。朝の方が光が入るから」

妻はカメラを充電器に繋ぎ、就寝した。

次の朝、妻がカメラの電源を入れると、液晶画面が点灯した。オートフォーカスが作動し、レンズが伸び縮みする音だけが、静かな台所で響く。

「あ、ピント合ってない。もう一回」

妻はカメラを構えなおした。再びオートフォーカスが作動する。

その時だった。

ピントが、写真に写っていない場所に合わせたのだ。

妻が家族の写真の方向に向けても、カメラは壁の隅、写真に何も写っていない部分をクローズアップしようとする。三回目で妻はカメラを下げた。

「おかしいな」

もう一度電源を入れ直した。オートフォーカスが再び作動する。今度は床の方向。そしてまた、壁の隅。

妻はカメラを手に、祖父・祖母の写真が並んでいる仏壇の前に向かった。

「これで撮ろう」

シャッターを切った。

液晶画面に再生された写真。

仏壇の写真の横、壁の隙間。そこに、目だけが写っていた。

妻は叫ばなかった。ただ、カメラを手に、その隙間をじっと見つめた。

隙間は塞がっていた。壁紙の継ぎ目だ。

妻はカメラを手に取ったまま、その場から動かなかった。


その日から、妻はカメラを使っていない。

「ピントが合わない」と言う。

でも電源を入れると、オートフォーカスが必ず壁の隅を向く。

妻はカメラを押し入れに戻したまま、開けようとしない。