退院した患者が帰宅する夜
2026年07月28日
第二生命保険クレーム調査班の聞き取り記録および内部メモ抄録より。発言者の氏名は保護済。\
【1 / クレーム受付ログ(システム自動生成)】
2026年3月4日 14:23 受信 件名:「夫が退院した筈なのに帰って来る」 該当患者:中原正樹 様(58歳、男性) 保険証券No.:87-0904-KG 内容要約:退院後3回にわたり、夫宅へ「帰宅した」との連絡が妻よりあり。ただし入院先からの情報では「三月二日で治療終了・自宅療養指示」済みと記録されている。夫から直接確認できないので調査を依頼します。」
→ 担当割り当て:田辺(C-7クラス)
【2 / クレーム聞き取り記録抄録 四月十日調書】 ※当事者二人の証言(以下A・B)。
【A / 妻 中原淳子(54歳)、受診時の発言】
「一週間前に病院から退院すると報告があって、届いた書類には『自宅療養』と書いてありました。でも三月十一日の夜、夫が帰ってきたんです。「もう大丈夫だ」と言って。しかし次の週にも帰ってきて。「また会えてよかった」と言うんですが……その度に、妻の私に似せているような気がしてなりません」
「今思うと困る。入院先から連絡があった筈の日は一度もあるのに」
→ 田辺メモ〔注〕:証言者の発話が若干不安定。四月十二日現在でも夫の居場所が不明と報告されている可能性あり(要確認)
【3 / 医療機関側からの回答通知】
第二病院総合内科より返信(2026年4月5日付、窓口:病棟事務室担当 佐伯):
「本病棟の記録に基づき申しますと、中原正樹氏は三月二日に主治医より在宅療養指示書が発行されております。その日から当病棟には在院しておりません。退院手続済みの患者が外部から再接触を試みる場合は、当院との関係はないものとしています。」
→ 同一の返答を四月七日にも受信確認済。「三月二日以降、中原正樹は本医業法人との一切の接点を断っている」と明記」(4月7日分)
※画像はクレーム受付担当が「証拠保全のため」自撮りしたとされるもの。「退院者」を名乗る者が病院内にいることを通報されたため(要確認)
【4 / 内部メモ抄録 田辺裕二による調査メモ(四月十二日付)】
私的メモ ・中原正樹氏、三月十日~四月二日の間、「入院中」としての記録は残っている筈。しかし実際に病室にいたのは何者か?
・妻への「帰宅連絡」はすべて同一IPアドレスから発信。ただし送信者の端末が特定できない(匿名回線)。
・第三段階の対応を要求する: ① 退院当時の医療記録と、現在病院内部で使われている「中原正樹という名前の患者」のデータが食い違うこと ② もし前者は正確なら、何者かが後者の立場に立っているのか──しかし病院内部には中原氏の顔写真(入院時)と同等のものはない筈だ
→ 田辺メモ〔注〕:四月十一日現在で再度、奥村課長より指示あり。「医療側からは「在院確認不能」との回答のみ得られたので、外部証拠の取得は不要。この件を「情報矛盾」として処理するよう」
【5 / 最終報告(四月十三日)】
田辺裕二より課長部へ提出:
「本件につきまして以下の結論といたします: ・三月二日以降における中原正樹氏の在院確認は不可能(医療機関からの回答通り)。 ・しかし四月一現在において、妻への「帰宅連絡」が計五回受信されております。これら全てに同一IPアドレスから送られ、送信元の特定には至っておりません。 ・病院側からは一切の接点断として返答済みです。 ・ただし四月二日~四月十二日にかけて、奥村課長の指示により外部からの再確認は見送り」となるところであり」
→ 田辺メモ〔注〕:四月十二日の時点で妻から報告された「退院した筈の者が家にいた」という事実は計六回確認。ただしいずれの場合も、夫の指紋・声紋に一致するデータが一切残っていなかった(要調査)
【6 / 追加メモ抄録 田辺裕二 個人メモ〔秘密〕 四月十三日未明】
「……妻の証言と病院のデータの間にある『空白』について、もう一度整理した。
三月二日以降に夫が家に戻った筈の回数→五回 その度に病院側から確認→『在院していない』*
つまり五月十四日現在、妻に夫は五つの日に会っている筈だが、それぞれの日に夫は病院にいなかった*
しかしもし医療記録が正しいとしても……病院から五度出た筈の人物が、自宅に帰るはずがない。
四月二日の時点で退院手続完了。四月十日の時点で再受診もなし。三月十一日~現在まで、中原正樹氏と名乗る人物への医療上の接触はゼロ*
……つまり、三月二日以降に『自宅に戻った筈の中原正樹』は、その日の時点ですでに病院のデータ上消えている**
五月十四日に妻が「帰宅を報告した」とする五つの日は……すべて三月二日以降。
→ 田辺メモ〔注〕:五月十五日現在、妻にはすでに夫が六回帰宅した報告がある。しかし病院からのデータは、三月二日以降中原正樹という人物への接触は一切皆無となる。
*「……この件を『情報矛盾』として処理するよう」というのは、奥村課長の指示だった筈。**
「五月十五日現在でも五つ目の連絡を受けていない」→ 田辺裕二メモ最終行〔注〕:このメモは内部共有には出さない」**