バックヤードの監視モニターに映る、自分自身以外の影

僕がそのドラッグストアで働き始めたのは、先月のことだった。

家から徒歩15分の場所にある24時間営業のドラッグストアで、深夜帯のシフトを請け負っている。時給は高い。客も少ない。特に問題はない――そう思っていた。

2週目が終わった頃、店長から言われた。

「バックヤードのモニタ、時々確認しておいて。在庫チェックに使えるから」

监控カメラの映像は、店内の隅にある小型の液晶モニターに表示されていた。16分割。それぞれの画面は白黒で、静かにノイズを刻んでいる。

最初はただの退屈つぶしだった。

ある日、深夜3時過ぎ。シフトの合間にモニタをぼんやりと見ながら、コーヒーを飲んでいた。

4番目の画面が、ふと目に入った。

僕はそこでコーヒーを飲んでいた。バックヤードの隅の席から、モニターを見つめる僕の姿が、4番目の画面に映っていた。

当たり前だ。バックヤードのカメラは、僕がいる場所を写している。

でも、4番目の画面の「僕」は、コーヒーを飲んでいなかった。

立ち上がって、棚の方へ手を伸ばしている。同じ服装。同じ体型。でも、僕は今座っている。

「……あれ?」

僕はモニターを見つめた。画面の中の「僕」は、棚から何かを取って、ゆっくりとカメラの方向へ顔を向けた。

顔が映った瞬間、背筋が凍りついた。

それは僕に似ていた。でも、僕ではなかった。

口元が、不自然に大きく開いていた。歯が、必要以上に多く見える。

画面の中の「僕」は、カメラに向かって、ゆっくりと微笑んだ。

僕はモニターから目を離した。コーヒーカップの横に、自分の手が置かれている。震えている。

もう一度モニターを見ると、4番目の画面は普通だった。僕が座っている姿が、何事もなく映っている。

「気のせいだ」

そう自分に言い聞かせた。深夜の疲労だ。ノイズの錯視だ。

でも、その日以来、モニタは見なくなった。

3日前のこと。シフトの終わり際、レジのチェックをしていた。

スマホの画面が点灯した。ドラッグストアのセキュリティアプリからの通知だ。

「バックヤードのモーションセンサーが検知しました」

バカじゃない。バックヤードには誰もいない。僕は今、店内に立っている。

通知がまた届いた。

「バックヤードのモーションセンサーが検知しました」

3回目。

4回目。

5回目。

同じメッセージが、1秒間隔で続いた。

僕はスマホを握りしめながら、ふと店内の大きな鏡に映る自分の姿を見た。

鏡の中の僕は、笑っていた。

僕は笑っていない。

鏡の中の「僕」は、ゆっくりと右手を上げ、中指を立てた。

その時、店内の照明が、一瞬だけ暗くなった。

点いた時、鏡の中の「僕」はいなかった。

代わりに、鏡の向こうに、もう一人の僕が立っていた。

ガラスの向こうから、鏡に手を当てている。

指紋が、外側についていた。

それ以来、僕はあのドラッグストアで働いていない。

でも、先週、応募した別の会社からメールが届いた。

「内定おめでとうございます」

その会社のロゴが、ドラッグストアのロゴに似ていることに、僕が気づいたのは、メールを読んでから10秒後だった。

メールの本文の最後に、小さくこう書いてあった。

「バックヤードで待ってます」


僕はそれから、そのドラッグストアの近くには決して近づかないようにしている。

でも、昨日の夜、家のスマホに通知が来た。

ドラッグストアのセキュリティアプリ。インストールした覚えはない。

「バックヤードのモーションセンサーが検知しました」

僕の家には、バックヤードなんてない。

アプリを開くと、カメラの映像が流れていた。それは僕の部屋の天井から、下を見下ろすアングルだった。

映像の中に、今この瞬間も、スマホでこれを読んでいる僕の姿が写っていた。

そして、映像の中の僕の背後で、もう一人の僕が、ゆっくりと立ち上がっているのが見えた。