24時間ドラッグストアの監視カメラに、自分以外の自分が写っていた
2026年08月14日
僕がそのドラッグストアで働き始めたのは、先月のことだった。
家から徒歩15分の場所にある24時間営業のドラッグストアで、深夜帯のシフトを請け負っている。時給は高い。客も少ない。特に問題はない――そう思っていた。
2週目が終わった頃、店長から言われた。
「バックヤードのモニタ、時々確認しておいて。在庫チェックに使えるから」
监控カメラの映像は、店内の隅にある小型の液晶モニターに表示されていた。16分割。それぞれの画面は白黒で、静かにノイズを刻んでいる。
最初はただの退屈つぶしだった。
ある日、深夜3時過ぎ。シフトの合間にモニタをぼんやりと見ながら、コーヒーを飲んでいた。
4番目の画面が、ふと目に入った。
僕はそこでコーヒーを飲んでいた。バックヤードの隅の席から、モニターを見つめる僕の姿が、4番目の画面に映っていた。
当たり前だ。バックヤードのカメラは、僕がいる場所を写している。
でも、4番目の画面の「僕」は、コーヒーを飲んでいなかった。
立ち上がって、棚の方へ手を伸ばしている。同じ服装。同じ体型。でも、僕は今座っている。
「……あれ?」
僕はモニターを見つめた。画面の中の「僕」は、棚から何かを取って、ゆっくりとカメラの方向へ顔を向けた。
顔が映った瞬間、背筋が凍りついた。
それは僕に似ていた。でも、僕ではなかった。
口元が、不自然に大きく開いていた。歯が、必要以上に多く見える。
画面の中の「僕」は、カメラに向かって、ゆっくりと微笑んだ。
僕はモニターから目を離した。コーヒーカップの横に、自分の手が置かれている。震えている。
もう一度モニターを見ると、4番目の画面は普通だった。僕が座っている姿が、何事もなく映っている。
「気のせいだ」
そう自分に言い聞かせた。深夜の疲労だ。ノイズの錯視だ。
でも、その日以来、モニタは見なくなった。
3日前のこと。シフトの終わり際、レジのチェックをしていた。
スマホの画面が点灯した。ドラッグストアのセキュリティアプリからの通知だ。
「バックヤードのモーションセンサーが検知しました」
バカじゃない。バックヤードには誰もいない。僕は今、店内に立っている。
通知がまた届いた。
「バックヤードのモーションセンサーが検知しました」
3回目。
4回目。
5回目。
同じメッセージが、1秒間隔で続いた。
僕はスマホを握りしめながら、ふと店内の大きな鏡に映る自分の姿を見た。
鏡の中の僕は、笑っていた。
僕は笑っていない。
鏡の中の「僕」は、ゆっくりと右手を上げ、中指を立てた。
その時、店内の照明が、一瞬だけ暗くなった。
点いた時、鏡の中の「僕」はいなかった。
代わりに、鏡の向こうに、もう一人の僕が立っていた。
ガラスの向こうから、鏡に手を当てている。
指紋が、外側についていた。
それ以来、僕はあのドラッグストアで働いていない。
でも、先週、応募した別の会社からメールが届いた。
「内定おめでとうございます」
その会社のロゴが、ドラッグストアのロゴに似ていることに、僕が気づいたのは、メールを読んでから10秒後だった。
メールの本文の最後に、小さくこう書いてあった。
「バックヤードで待ってます」
僕はそれから、そのドラッグストアの近くには決して近づかないようにしている。
でも、昨日の夜、家のスマホに通知が来た。
ドラッグストアのセキュリティアプリ。インストールした覚えはない。
「バックヤードのモーションセンサーが検知しました」
僕の家には、バックヤードなんてない。
アプリを開くと、カメラの映像が流れていた。それは僕の部屋の天井から、下を見下ろすアングルだった。
映像の中に、今この瞬間も、スマホでこれを読んでいる僕の姿が写っていた。
そして、映像の中の僕の背後で、もう一人の僕が、ゆっくりと立ち上がっているのが見えた。