24時間ドラッグストアのセルフレジ

知人が話していた。2025年の春のことだ。

知人は世田谷区のマンションに住む、三十代前半の女性。毎週木曜日の夜、家から徒歩三分の24時間ドラッグストアに買い物をしていた。夜中十一時過ぎでも人がいて、薬も日用品も全部揃う。生活のインフラだった。

セルフレジが導入されてからは、自分でスキャンして袋に入れて、精算するようになった。待ち時間がなくなったのは良かった。

三月のある木曜日のことだ。知人は午後十一時四十分頃、ドラッグストアに入った。店内はまばゆいほどの白い照明。棚は整然と並び、BGMのように軽やかなポップミュージックが流れている。どこも変わらない、何の変哲もない日常の空間だ。

「今夜は風邪薬と、あの新しいシャンプーを買おう」

知人はカゴを持って、目的の棚へ向かった。風邪薬を二つ、シャンプーを一つ。カゴに入れて、セルフレジへ歩いた。

セルフレジの画面が点灯する。「商品を入れてください」

知人はまず風邪薬をスキャンした。ビープ。画面に「感冒薬 ×1」が表示される。次にシャンプー。ビープ。「シャンプー ×1」。

そして、カゴの最後に残ったもの——それは、知人が棚から取った覚えのない商品だった。

白い瓶に入った、目薬のようなもの。ラベルには「目薬」とは書かれていない。ただ、黒い文字で「おたふく」とだけ書かれている。知人はそんな商品を見たことがない。

「え、これ何だっけ……」

知人はもう一度棚を振り返った。その棚には、目薬が数十本並んでいた。どれも見たことのない商品だ。

「あ、これかな」

知人は適当な目薬を一つ手に取り、スキャンした。ビープ。画面に「目薬 ×1」が表示される。

その時だった。

セルフレジの画面が、一瞬点滅した。

そして、カウントが増えている。

「感冒薬 ×1」 「シャンプー ×1」 「目薬 ×1」 「おたふく ×1」

おたふく。知人が棚で見た覚えのない商品が、もう一つカウントされている。

「いや、待って。一つしか買っていないよ」

知人は画面のおたふくを削除しようとした。でも削除ボタンがない。画面には四つの商品が並んでいる。

「おかしいな……」

知人はもう一度、カゴの中身を確認した。風邪薬二つ、シャンプー一つ、目薬一つ。おたふくなんて入っていない。

でも画面には、おたふくが二つ表示されている。

「おたふく ×2」

二度目の点滅。画面がまた点滅して、おたふくがもう一つ増えている。三つ目だ。

知人は背筋が寒くなった。店内のBGMが、急に大きく聞こえるようになった。

「もう、やめる」

知人は精算をキャンセルして、カゴをセルフレジから離れた。店員を呼ぼうとした。でも店員がいない。レジの横には「店員をお呼びください」と書かれたボタンがある。

押した。

「ただいま店員を向かっております。しばらくお待ちくださいませ」

機械の声。何の反応もない。

知人はカゴを持ち、店を出ようとした。その時、セルフレジの画面がまた点滅した。

知人はふと振り返った。

画面には、おたふくが五つ表示されていた。

「おたふく ×5」

そして、画面の隅に、新しい文字が現れた。

「もっと、入れてください」

知人は逃げ出した。カゴも忘れて。

その夜から、知人はそのドラッグストアに行っていない。

でも、一週間後、知人はカゴを置き忘れてきたことに気づいた。風邪薬二つ、シャンプー一つ、目薬一つ。

知人は、カゴを取りに戻った。店の入り口は開いていた。中は暗かった。照明は消えていた。

でも、セルフレジの画面だけは、白く光っていた。

画面には、おたふくが十一個表示されていた。

「おたふく ×11」

そして、もう一つの文字が。

「まだ、入れてください」

知人は走って家へ帰った。それ以来、そのドラッグストアの前を通るのも怖くて、別の道を通るようになった。

でも、昨夜、知人はふと気づいた。

カゴを置き忘れていたはずの風邪薬が、家の玄関の靴箱の奥に入っていたこと。

そして、その隣に、白い瓶に入った——