地下2階の駐車場

知人の話だ。

彼は先月、都心の新興マンションに引越した。32階建て、地下2階駐車場付き。入居初日の夜、エレベーターで地下2階へ車を搬入した。

「特に違和感なんてなかったよ。ただ、2階のボタン押したら、たまに1階で止まることあるよねって話くらい」

引越後、3日目のある夜のことだった。

彼は23階の部屋からエレベーターに乗った。地下2階のボタンを押す。

エレベーターは降下し始めた。

だが、表示が止まらない。10階、9階、8階……地下1階を過ぎても、表示は「B1」のまま動かない。

「あれ、故障か」

そう思った瞬間、エレベーターがガクンと停まった。明かりが消え、非常灯だけが点灯する。

「……っ」

彼は非常ベルを押した。応答はない。

5秒ほど待っても反応がないので、携帯電話で管理会社に電話しようとした。

その時だった。

エレベーターの扉が、ゆっくりと開き始めた。

地下2階の表示が出ている。

扉が開くと、そこには広大な駐車場が広がっていた。

「……誰もいないな」

彼はそう呟き、外に出ようとした瞬間、足元の床に何かが乗っているのに気づいた。

水滴だ。

エレベーターの床から、駐車場の方へ、連続した水滴の痕が伸びている。

そして、その先には、濡れた足跡があった。

男性の靴の形だ。

「えっ、誰かいるの?」

応答はない。駐車場には、停められた車の間で、わずかに懐中電灯の光が揺れているのが見えた。

彼は背筋が凍るのを感じた。

その時、エレベーターの扉が勢いよく閉まり、明かりが戻った。

表示は「23」に戻っていた。

彼は部屋に戻り、二度と地下2階へは行かなかった。

その夜から、彼はエレベーターに乗るたびに、表示がB2にならないか確認するようになった。

そして、引越してから一週間後、彼は管理会社へ相談した。

「地下2階の駐車場、今夜も点検してもらえますか」

管理会社の担当者が来ると、口を揃えて言ったという。

「地下2階には、誰も入っていませんよ」

だが、彼はその夜、エレベーターの床に、また一滴の水滴が落ちているのを見た。

今も、彼は毎晩、エレベーターの表示を確認してから乗っている。

B2になった瞬間、扉が開く前に、全てのボタンを離すようにしている。


知人は今も、エレベーターの音に敏感になっているそうだ。

降下中に、ふと表示を確認すると、たまにB2になっていることがある。

でも、扉は開かない。

ただ、開いた瞬間に、水滴の匂いが立ち込めることがあるという。