「新築マンションのエレベーターが、地下2階で止まりはじめた」
2026年09月28日
知人の話だ。
彼は先月、都心の新興マンションに引越した。32階建て、地下2階駐車場付き。入居初日の夜、エレベーターで地下2階へ車を搬入した。
「特に違和感なんてなかったよ。ただ、2階のボタン押したら、たまに1階で止まることあるよねって話くらい」
引越後、3日目のある夜のことだった。
彼は23階の部屋からエレベーターに乗った。地下2階のボタンを押す。
エレベーターは降下し始めた。
だが、表示が止まらない。10階、9階、8階……地下1階を過ぎても、表示は「B1」のまま動かない。
「あれ、故障か」
そう思った瞬間、エレベーターがガクンと停まった。明かりが消え、非常灯だけが点灯する。
「……っ」
彼は非常ベルを押した。応答はない。
5秒ほど待っても反応がないので、携帯電話で管理会社に電話しようとした。
その時だった。
エレベーターの扉が、ゆっくりと開き始めた。
地下2階の表示が出ている。
扉が開くと、そこには広大な駐車場が広がっていた。
「……誰もいないな」
彼はそう呟き、外に出ようとした瞬間、足元の床に何かが乗っているのに気づいた。
水滴だ。
エレベーターの床から、駐車場の方へ、連続した水滴の痕が伸びている。
そして、その先には、濡れた足跡があった。
男性の靴の形だ。
「えっ、誰かいるの?」
応答はない。駐車場には、停められた車の間で、わずかに懐中電灯の光が揺れているのが見えた。
彼は背筋が凍るのを感じた。
その時、エレベーターの扉が勢いよく閉まり、明かりが戻った。
表示は「23」に戻っていた。
彼は部屋に戻り、二度と地下2階へは行かなかった。
その夜から、彼はエレベーターに乗るたびに、表示がB2にならないか確認するようになった。
そして、引越してから一週間後、彼は管理会社へ相談した。
「地下2階の駐車場、今夜も点検してもらえますか」
管理会社の担当者が来ると、口を揃えて言ったという。
「地下2階には、誰も入っていませんよ」
だが、彼はその夜、エレベーターの床に、また一滴の水滴が落ちているのを見た。
今も、彼は毎晩、エレベーターの表示を確認してから乗っている。
B2になった瞬間、扉が開く前に、全てのボタンを離すようにしている。
知人は今も、エレベーターの音に敏感になっているそうだ。
降下中に、ふと表示を確認すると、たまにB2になっていることがある。
でも、扉は開かない。
ただ、開いた瞬間に、水滴の匂いが立ち込めることがあるという。