エレベーターが1秒だけ違う階を表示した日
2026年08月30日
僕が住んでいるのは都内某所の築12年、52階建ての高層マンションだ。15階に住んでいて、毎朝同じエレベーターに乗って駅に向かう。
それが先週の水曜日、朝の通勤時間のことだった。
いつも通り15階のエレベーターホールで待っていた。7時45分頃なので、ほぼ並ばずに乗れた。ボタンを押して閉まるのを待っていたら、ふと床に映る自分の顔が、なんか違うと思った。
顔が歪んでいるんじゃない。背景が歪んでいるんだ。
エレベーターの扉に映る僕の後ろに、15階のコンクリートの壁が見えるはずなのに、映っていたのは暗い廊下だった。薄暗い。手すりのない階段が続いている。
「あれ?」
その瞬間、エレベーターの階数表示が16になった。
15階には16階はない。ビル図面でも確認したことがある。地下室はB1、B2だけだ。
表示は16のままで、エレベーターは動いていない。閉まるべき扉が、半分だけ開いたまま揺れている。
そして1秒後、15に変わった。
扉はパッと閉まった。エレベーターは普通に動き出した。
「……ただの誤表示か」
そう思い、僕はいつものように乗った。でも、その日から毎日、エレベーターに乗るたびに階数表示をよく見るようになった。
二日目。15階に着いた瞬間、表示が一瞬17に点滅した。
三日目。14階を通り過ぎたとき、表示が16のまま止まった。エレベーターは止まらず、13階へ向かって走り続けた。
四日目。今日は乗らないでおこうと思った。でも遅刻する。エレベーターを待っていたら、ホールにいたおばさんが言った。
「あのね、夜中に15階のエレベーター、誰も押したのに動くんよ」
「え、それ怖い」
「うん。でも daytime は大丈夫みたい」
五日目。今朝も表示は正常だった。安心した。
でも、今まさにエレベーターに乗っているんだ。15階から16階へ向かっている。
階数表示が16になっている。
扉は開かない。でも、映る自分の顔が歪んでいる。
1秒後、表示は15に変わった。
でもエレベーターは止まらない。