エントランスの防犯カメラモニター

知人が話していた。2021年の夏のことだ。

東京・板橋区の、築十五年ほどのマンションに住む、三十代の男性の話。彼は二階の角部屋に住んでいた。一階にエントランスがあり、インターホンと防犯カメラのモニターがついている。

エントランスには、壁に埋め込まれた四分割のモニターがある。四カ所のカメラからの映像が、グリーンの夜間モードで表示されている。一つは玄関ドア、一つは駐車場、一つは階段、一つは裏口。

毎晩、寝る前に確認するのが日課だった。

「今日は誰もいなかったな」

そう思いながら、インターホンのチャイムが鳴っていないか確認して、ベッドに戻る。当たり前の日常だった。

それが、七月のある夜から変わった。

知人はいつものようにエントランスのモニターを確認していた。四つの画面、すべてグリーンの夜間モード。

玄関のドア。駐車場。階段。裏口。

すべて、何の変哲もない映像だ。

知人はインターホンが鳴っていないことを確認し、そのまま部屋に戻ろうとした。その時、ふと気づいた。

階段のカメラの映像に、自分が映っていない。

知人はエントランスの扉を開けたままだった。階段のカメラは、エントランスの扉から階段へと向かうアングルになっている。当然、扉を開けた知人の姿が映るはずだ。

なのに、映っていない。

知人は振り返った。背後のエントランスの扉は、もちろん開いたまま。廊下には自分の影が伸びている。

モニターに戻って確認する。階段の画面には、誰もいない。

「……は?」

知人は首をかしげ、もう一度扉の外を見た。廊下の照明はついている。自分の影は壁に落ちている。

モニターに戻ると、階段の画面は相変わらず空だ。

知人は不思議に思い、他の三つの画面を確認した。玄関のドア。駐車場。裏口。

すべて正常に映っている。

階段だけ、おかしい。

知人は階段のカメラが壊れたのかと思い、マンションの管理会社に電話をした。次の日、管理会社の人が来て確認してくれることになった。

その夜、知人はまたエントランスのモニターを確認した。

四つの画面。

玄関のドア。駐車場。裏口。

そして、階段。

階段の画面に、知人が映っていた。

「ほっ……」

知人はほっとした。カメラが壊れていたのか、一時的な不具合だったのだろう。

知人が部屋に戻ろうとしたその時だ。

階段の画面に、もう一人の影が映った。

知人は振り返った。背後には誰もいない。

モニターに戻ると、階段の画面には、知人の影が二人、重なって映っている。

知人は息を呑んだ。

階段のカメラに、知人が二人映っている。

知人はエントランスの扉を閉め、部屋に戻った。その夜、知人は眠れなかった。

次の日、管理会社の人が来てカメラを確認した。

「カメラは正常ですよ。問題ないと思います」

知人は管理会社の人の言葉に、少し安心した。

しかし、その夜から、また変わった。

階段のカメラに、知人が映らなくなった。

知人がエントランスに立っても、階段のカメラには映らない。知人が部屋に戻ろうとしても、映らない。

知人はエントランスに立ち尽くし、モニターを見つめ続けた。

知人がいるのに、映らない。

知人は、その日以来、エントランスのモニターを見るのが怖くなった。

知人は、今でも階段のカメラに、何が映っているのか、確認することができない。

知人は、今でも、エントランスの扉を開けるたびに、階段のカメラに自分が映っているのか、確認してしまう。

映っていなかったら、どうすればいいのかわからない。