承認したのは、ちょっとした気まぐれだった。

去年の十一月のある夜、SNSに見知らぬアカウントからフォローリクエストが届いた。

プロフィール写真は夕暮れの空。自己紹介欄には「写真と散歩が好きです」とだけ書かれていた。投稿はゼロ。フォロワーも、フォロー中も、ゼロ。

スパムには見えなかった。

承認ボタンを押して、そのまま忘れた。

フォローリクエストの通知画面

見知らぬアカウントからの、最初の接触だった


数日後、DMが届いた。

「昨日の写真、素敵でしたね。あのカフェ、よく行くんですか?」

昨日投稿したのは、渋谷で飲んだコーヒーの写真だ。カップのアップショットで、店の名前もロゴも映っていなかった。「行きつけ」というのは当たっていた。でも、投稿からは分からないはずだ。

「たまに、ですね。落ち着くんですよ」

「分かります。ああいう雰囲気の店、好きです」

会話は自然で、相手は感じのいい人に見えた。写真の話、散歩のルートの話、好きな街の話。共通点が多かった。やり取りは週に何度か続くようになった。


最初に気づいたのは、一ヶ月ほど経った頃だ。

「昨日、乗る電車、間違えませんでしたか?」

昨日、確かに乗り過ごした。ぼんやりしていて、気づいたら隣の駅にいた。でも、そんなことはSNSに書いていない。

「……なんで知ってるんですか?」

少し間があった。

「あ、違います。なんとなく、そういう日ってありますよね、って言いたかっただけです。ごめんなさい、変な言い方で」

笑って流した。でも、胸の奥にわずかな引っかかりが残った。


次におかしいと思ったのは、その翌週のことだ。

「今日、コンビニで何か落としませんでしたか?」

私はその日、小銭入れから十円玉を落としていた。帰り道に立ち寄ったコンビニで。誰にも話していない。写真も撮っていない。SNSにも一切書いていない。

「なんで——」

「あ、ちょっと似た経験をしたもので。気になっちゃって。違ったらすみません」

また、笑って流された。

私も笑って返信した。

でも、画面から目が離せなかった。


この人は、私を見ている。

確信したのは、その三日後だった。

「今日の夕飯、カレーでしたね」

カーテンを閉めた部屋で、一人で作って食べた。写真は撮っていない。誰にも言っていない。鍋を洗ってすぐ、ソファに転がっていただけだ。

画面を凝視した。

どうすれば、この人は知ることができるのか。

答えが出なかった。

窓の外の暗闇の中に佇む影

あの窓のそばを、何度通り過ぎていたのだろう


返信せずに、ブロックした。

アカウントはすぐに消えた。それでいい、そう思った。

念のため、SNSのアカウントも非公開に設定した。投稿もすべて削除した。スマホを机に伏せて、深呼吸をした。

終わった。

そう信じようとした。


でも、ベッドに入って電気を消した瞬間、ふと思った。

私は一度も、自分の住所を教えていない。

名前も、顔写真も出していない。アカウント名はニックネームだ。

それなのに、どうやってカーテンを閉めた部屋の夕飯を知ることができるのか。

どうやって、コンビニで落とした十円玉を知ることができるのか。

答えはひとつしかない。

直接、見ていた。


玄関の外で、かすかな物音がした。

暗い廊下の奥、ドアの隙間から漏れる光と動く影

ドアの下の光が、ゆっくりと揺れていた

私はそのまま、動けなかった。

スマホを手に取ったが、誰に電話すればいいのか、頭が真っ白になった。

物音は、しばらくして消えた。

翌朝、玄関ドアのノブに、小さな傷がついていた。


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