ゴミ捨て場に置かれた写真

私の住んでいる団地は、築三十年を超える老朽物件だ。エレベーターはたまに止まるし、廊下の蛍光灯も点滅する。それでも家賃が安いので、一人暮らしの私には手放せなかった。

問題は、ゴミ捨て場の場所だ。

団地の裏手に回った、コンクリートの小屋がある。夜は点灯していない。入口には「可燃ゴミ・不燃ゴミ・資源ゴミ」のシールが剥がれかけ、中には三つの大きなゴミ箱が並んでいる。

最初は普通の日だった。

夜十一時頃、不燃ゴミを捨てようとゴミ捨て場に向かった。手持ちの段ボール箱を折り、ゴミ箱に投じようとしたその時、足元で何か紙がはさっているのが見えた。

ゴミ箱の隙間から、一枚の写真が半分ほど顔を出していた。

「あ、ごみか」

そう思い、つま先でゴミ箱の中を覗き込んだ。写真の下にはもう二、三枚重なっている。

私は写真を取り出した。

それは私の団地のベランダの写真だった。

スマホで撮ったような、デジタルな画質。ベランダの手すり、そこに干してあった私のシャツ、隅に置かれた植木鉢。夕暮れ時の光が斜めに入っている。

しかし、おかしい。

私はこのベランダから写真を撮った記憶が、全くない。

さらに不気味なことに、写真の写り込みにある私のシャツは、私が昨夜着て洗濯に出した、青いポロシャツだった。

「誰かが撮ったんだな」

そう思って、私は写真をゴミ箱に戻そうとした。

その時、写真の裏側に気づいた。

ボールペンの字で、こう書かれていた。

「明日も撮る」

翌日も、その次の日も、ゴミ捨て場に写真が置かれていた。

毎晩、違う角度から撮られた私の団地の部屋の写真。ベランダ、窓、時にはカーテンの隙間から写る私の姿まで。

一枚一枚、裏側に同じ言葉が書かれている。

「明日も撮る」

警察に相談した。しかし、証拠がない。写真の中に私自身は写っているが、撮った本人の姿はない。防犯カメラの映像にも、ゴミ捨て場に向かう私の姿しか映っていない。

「写真が置かれるのは、毎晩十一時頃。ゴミ箱の隙間から、少し顔を出している。まるで『見てね』と言っているようだ」

警察官が言った。

「もう捨てないほうがいいですよ」

その日以来、私はゴミ捨て場に近寄らない。

しかし、ある朝、玄関のドアの隙間に、一枚の写真が挟まれているのに気づいた。

それは昨日の夜、私の団地の部屋の中から撮られた写真だった。

ソファに座っている私。背後の窓には、団地の裏手のゴミ捨て場が写っている。

写真の裏側には、こう書かれていた。

「今日はいい被写体だった」

その夜、私は団地を去った。

今、新しい場所に住んでいる。ゴミ捨て場は遠く、団地の裏手にある。

先週、新しい近所のコインランドリーで、ふと写真立てが目に入った。

それは私の団地のゴミ捨て場の写真だった。

撮ったことのない、ゴミ捨て場の写真が、私の知らない誰かの手で、私の目の前に置かれていた。

裏側には、新しい言葉が書かれていた。

「次は、もっと近くで」