夜中の配達は、音がしない。

三田が気づいたのは、住居用の宅配便ボックスが開く音があった日からだった。

アパートの廊下に設置されたスチール製の配達専用の箱。鍵はかかっていない。中に入るのは受取人や郵便配達員のふりをした人物に限られ、夜中の訪問は滅多にないはずだった。 しかし、先週から毎晩のように、深夜1時すぎにボックスが開く音が聞こえるようになった。三田は朝起きたら、箱の中に紙切れや水の入ったビニール袋が転がっている自分に気づいた。「またイタズラか」と思い、不動産屋に電話したが「夜中に開くのは近所の子供です」と言われるだけで改善しなかった。 5日目、三田は決意した。「今夜は待てる」。 23時。二階の自室で、枕元にスマホを置いたまま目を覚ますと……。

パカッ、という音。深夜1時ちょうどに配達BOXのフタが持ち上がり、箱の中から低い声が漏れた声があった。

「……あぁん」 それは人間のうめき声には聞こえなかった。ただ、なにかにひっかけられたような低く震える音。三田は無意識に階下を見に行った。「見えたのか?」と問いたくなったほど、その音は生々しかった。

階段を降りると、配達ボックスの前に立っている自分がいた。 だが、三田の足が動かない。スマホを持った左手が震えている。箱の中からまた声。 「……助けて……」今度ははっきりした日本語だった。 三田がボックスの蓋を開けようとした瞬間、中から誰かの手が滑り出し、その指が三田の手首を掴んだ。冷たい指。生ぬるい息が手の甲を這いくすぐったくなるほど近かった。

三田は必死に引き千切った手とBOXに鍵をかけ、もう二度とは開けさせるまいと決めた。朝になって配達員を呼ぶと「中の物を見ますね」。三田は箱を開けた時の中身が見たいと言ったが、配達は顔をひきつける。「あのBOX、中を見るのはNGだったかも……」と言い残した後者と消えた。 夜中に再び音がするのを聞いていた三田は、その後の数日間、BOXの近くを通らなくなり、見えないふりをして生活した。

しかし、10日後の深夜1時。ボックスから声が漏れた。 「三田さん……」。もう三田の顔を見て話しているかのように名前を呼んでいた。 「箱の中は空きっっぽくてさぁ、誰かが覗いてるんだよ」という低い笑い声と共にフタが持ち上がった。見るとボックスの内側には黒い隙間があり、そこからは人の顔のような影が一瞬浮かんで映りこんだまま動かなかった。

三田の部屋に再び音が鳴った時、そのBOXはもう中から閉じられていた。鍵もかかった。

その後

次の日には配達ボックス自体が撤去され、「設置ミス」という理由だったようだった。 しかし三田によると、夜になると「箱がないのにフタが開く音」だけが残っているのだという。


— 配達BOX —