32階に住んでいる知人の話です。

都内某所のタワーマンションに単身で引っ越してきて、最初の月は特に問題なかった。眺望が良く、静かで、満足していた。

問題が始まったのは2週間目のことです。

深夜2時頃、ふと目が覚めると、窓の外から「コン、コン」という音が聞こえた。木製の本を机に置くような、鈍い音です。

「猫でもいるかな」と思い、カーテンをめくって外を見た。32階だ。地面からは約100メートル。手すりもない。バルコニーもない。

何もいない。

翌日も同じ時間。また「コン、コン」。今度は少し強めで。

3日目は「コンコンコン」というリズムで、まるで誰かがドアをノックしているようだった。

「防犯カメラをチェックしよう」と、マンションの管理アプリを開いた。エントランスのカメラは問題ない。エレベーターのカメラも正常。

だが、ふと気づいた。窓の外側に防犯カメラが一つ設置されているのだ。管理用のカメラで、通常は建物の外観を監視している。

そのカメラのログを確認すると、過去3日間の深夜2時に、窓の外側に人影が写っていた。

32階の窓の外に。

知人はすぐに管理会社に連絡した。すると「カメラのログには何も写っていません」との回答。

「では、あの音は?」

「窓ガラスの熱膨張です。夜間に温度が下がると、そういう音が出ます」

その説明で納得した。おそらくそうだろうと思った。

だが、その夜も「コン、コン」。

知人は窓に近づき、カーテンの隙間から外を見た。

ガラスには、月の光が反射して、部屋の様子がうっすらと映っている。その反射の中に、知人自身の姿が写っている。

そして、その横に、もう一人の影が写っていた。

知人は一人暮らしだ。部屋には誰もいない。

反射の中の影は、窓の外側から、知人の背後に立っている。手のひらがガラスに密着している。

知人はその場で凍りついた。

そしてふと気づいた。

窓ガラスの反射に写っている「自分」は、カーテンを覗き込んでいる。

でも、自分は今、ベッドに立っている。

反射の中の「自分」が、ゆっくりと首をかしげた。

その瞬間、窓の外から「コン」という音がした。

ガラスに、手のひらの形が、くっきりと残っていた。

知人はその夜、逃げ出した。

その後の消息は、知人自身も語らない。

ただ、引っ越した後、新しい家の窓にも「コン、コン」という音が聞こえるようになった、と最後に漏らした言葉だった。


あなたの住んでいるマンションも、窓の外側から何かを見られていないか、確認してみたらどうだろう。