祖母の訃報を受けたのは、十月の終わりだった。

電話口で「喜代子さんが亡くなりました」という声を聞いた時、涙より先に罪悪感が来た。最後に会ったのは十七年前、私がまだ小学生の頃だった。

村はバスで最寄り駅から一時間半、そこからさらに林道を二十分歩く場所にあった。

薄暗い山道

林道はすぐに暗くなった。空には星が出始めていた

道中、幼少期の記憶を手繰り寄せようとした。

けれど不思議なことに、何も出てこなかった。この山道の景色も、川のせせらぎも、何かを思い出させてくれるはずなのに、ただの初めて見る風景にしか感じられなかった。

村に入ると、数人の老人たちが出迎えてくれた。

「よう来てくれた。待っとったよ」

一番年配の老婆が、私の手を両手で握った。その手のひらはひどく冷たかった。

「あなた方とは、初めてお会いしますよね」と私は言った。

老婆は少し目を細めた。

「初めて?そがいなことはない。あんたはいつもここへ帰ってくるんじゃから」

意味がよく分からなかったが、田舎の人特有の言い回しだろうと思ってやり過ごした。

祖母の家は集落の一番奥にあった。葬儀の準備がされた座敷に、真新しい位牌が置かれていた。遺影の中の祖母は、穏やかに微笑んでいた。

仏間に通されて、親族として紹介された人たちと挨拶を交わした。ほとんど知らない顔だったが、その中の一人の女性が目に留まった。四十代くらい、私によく似た顔立ちをしていた。

「遠縁の方ですか」と聞くと、その女性は首を振った。

「わたしもあなたと同じよ。帰ってきた人間」

何かが引っかかったが、法事の慌ただしさの中でその会話は流れてしまった。

夜、村人たちが引き上げ、私は一人で仏間に残った。祖母への線香を絶やさないようにと言われていたからだ。

手持ち無沙汰に部屋を見回していると、古い棚の上に写真立てが並んでいることに気がついた。ほとんどは祖母の若い頃の写真だったが、一枚、見覚えのない構図の写真があった。

この村の山道を歩く女性の写真だった。

後ろ姿で、こちらを向いていないが、その服装が気になった。私が今日着てきたのと、まったく同じ服だった。

待って。

私はその写真を手に取った。日付けのスタンプが隅に押されていた。

二〇〇三年、十一月。

二十三年前の写真だ。私はその年、まだ小学生だった。この服は今日、東京のアパートのクローゼットから出してきたものだ。なぜこんな写真が——

「見つけてしまいましたか」

背後から声がした。振り返ると、昼間の「よく似た顔の女性」が立っていた。

「この写真の女性は誰ですか」と私は尋ねた。

女性はしばらく黙っていた。

並んだ年代写真

昭和三十八年。昭和六十一年。二〇〇三年。そして——

「わたしです。二十三年前のわたし」と、女性は静かに言った。

「あなたが?でも、この服は——」

「あなたの服に似ているでしょう?」女性は少し悲しそうに笑った。「わたしたちはいつも、似たような服を着て、この村に帰ってくるの。顔も似ている。毎回少しずつ違うけれど、でも根っこは同じ」

「どういう意味ですか」

女性は窓の外を見た。闇の中に、山の輪郭だけが浮かんでいた。

「この村はね」と彼女は言った。「何十年かに一度、同じ人を呼び寄せるの。別の時代から。あなたは今日来た。二十三年前にはわたしが来た。それより前にも、同じ顔をした女が来ている。棚の奥を見てごらんなさい」

言われた通りに棚の奥を確認すると、まだ写真立てがあった。モノクロの写真。そこにも、この山道を歩く女性の後ろ姿が写っていた。

私と同じ体型。同じ歩き方。

写真の隅に、薄れた文字で年号が書かれていた。

昭和三十八年。

「村は何のために私たちを呼ぶんですか」

女性はすぐには答えなかった。

「喜代子おばあちゃんが死んだでしょう」とやっと言った。「あの人が、ずっとあなたたちを繋ぎとめていた人だったから。もう引き留める人がいなくなった。だから——」

廊下で音がした。

ゆっくりとした、何かを引きずるような音。

女性の顔が青くなった。

「まずい。来ないはずだったのに」

「何が来るんですか」

「呼んでいた側が」と彼女は囁いた。「わたしたちを必要としていた、山の奥の何かが」

足音はだんだん近づいてきた。

私は逃げようとしたが、足が動かなかった。体の芯から、冷たい何かがゆっくりと這い上がってくる感覚があった。

女性の言葉が頭の中で繰り返された。

帰ってきた人間。

障子に映る影

影は、人間よりも腕が長かった

気づいてしまった。

私はここに来たのではなかった。ここへ戻ってきたのだ。

何度も、何度も、繰り返して。

廊下の音が止まった。

障子の向こうに、長い影が差した。


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