レジの引き出しに、自分のお金が混じっていた
2026年08月25日
知人が話していたことがある。コンビニの深夜バイトの話だ。
知人は大学三年の夏、家計助けで22時から翌6時までの深夜シフトに入った。新米だったから、最初は店長に「閉店後の現金処理、できるな?」と聞かれ、頷いたのが全てのはじまりだった。
「一日の売上計算して、引き出しを空にして。レシートはここに入れて、鍵はここに返せばいい」
店長が指差したのは、レジ下の引き出しだった。暗い店内、蛍光灯は閉店後の減光モード。残っているのは知人一人だけ。
最初は普通に終わった。売上計算、レシート整理、引き出しの空確認。すべてマニュアル通りに。
三週間目のある日、知人がいつものように現金処理をしていた時、ふと気づいた。
レジの引き出しの中に、一万円札が一枚、入っているのだ。
「あれ?」
知人はその日、まだ閉店直後。売上計算を始めて間もない。引き出しは空のはずだ。
「誰かが入れた?」
考えられるのは、店長か、他の深夜スタッフだけ。でも、誰もそんな話はしていなかった。
知人は一万円札をレジの横に置き、売上計算を続けた。計算が終わり、引き出しを確認すると、また一万円札が一枚、入っている。
同じ札ではない。違う一万円札だった。
知人は背筋が凍るのを感じた。引き出しを二度、三度と確認した。每一次、一万円札が一枚、入っている。
「閉店後、このレジの前に立ったのは、自分だけだ」
知人はその場を後にした。次の日、店長に「引き出しに謎の現金が入る」と話すと、店長は不思議そうな顔をした。
「うちでそんなこと、起きたことないよ。引き出しは毎晩、空にしてるだろ?」
知人はその夜、引き出しに一万円札を入れておいた。閉店後、自分で確認する。
結果は同じだった。一万円札が、現れた。
知人は警察に届けた。警察は「盗難届」として受理したが、結局、犯人は捕まらなかった。
知人はその夜を最後に、深夜バイトを辞めた。
「引き出しの奥に、指が一本、入っていた時が一番怖かった」と知人は最後に言った。
指が、入っていたのだ。