病室の心電図が、誰かの脈を映していた
2026年08月18日
知人の看護師、Sが話していた。彼女は地方都市の小さなクリニックで夜勤をしている。
そのクリニックは、日中は内科として営業し、夜は急病人に対応する体制だった。病室は三つ。常に満室になることはない。
ある日の深夜三時頃、Sは看護師ステーションでカルテを整えていた。
その時、向かいの病室の一つから、心電図モニターのブザーが鳴った。
ピピピピ——
Sは慌てて病室に駆けつけた。病室のベッドには患者がいない。
ベッドメイキングが終わり、誰も入っていない状態だった。
なのに、心電図モニターは正常な脈波を映している。
ドクン、ドクン、ドクン。
一分ほど経っても、脈は止まらない。四十前後の安定した心拍数。
Sはモニターを再起動した。一瞬、波形が消えた。
しかし、三秒後にはまた同じ脈が現れていた。
Sは電気を消して、病室を出た。廊下のドアを閉めた瞬間、心電図の音が聞こえなくなった。
でも、次の朝、朝勤の看護師に「昨日の夜、病室のモニターが勝手に動いてたんだよ」と話したところ、朝勤の看護師は顔を青くした。
「あの病室、去年の十二月に亡くなった患者のもの。遺族がモニターを寄付してくれたの」
Sは冷や汗をかいた。
「でも、モニターがつながっているコードの先には、なにもつながっていないよ」
Sは今でも、夜勤の時にその病室の前を通るのが怖いという。
夜が更深まるほど、心電図の音は小さく、しかし確かに聞こえてくる。
ドクン、ドクン、ドクン。