押入れから見つかったカセットテープ

祖母が亡くなってから三ヶ月が経った。

田舎の一軒家は、生憎と私が都会に引っ越してから十年以上、誰も手付かずの状態だった。

片付けを手伝おうと、地元の作業員二人を雇って向かったその日の午後、まず最初に手が付いたのが二階の押入れだった。

祖母は昔から、何かを保管することに執着する人だった。押入れには段ボールが三十箱以上、廊下には衣類や食器が山積みになっている。

「この家、本当に住めるんですか?」

作業員の一人が、半笑いでそう聞いてきた。

「畳もカビてますし、屋根もボロボロですねえ」

私は苦笑いして、黙って箱を開け始めた。

そのうちの一箱から、カセットテープが五本ほど出てきた。

透明なケースは黄ばみ、ラベルには祖母の字で「昭和五十八年 録音」と書かれている。

「おばあちゃん、昔からカセットテープ好きだったよな」

私は適当にテープレコーダーを探し、見つけてはテープを挿し込んだ。

一本目は、祖母が独り歌を歌っている音だった。古い民謡らしい。声はもう若々しい。

二本目は、庭の虫の声と風だけ。無音に近い。

三本目を入れ替えた瞬間、私は背筋が凍るのを感じた。

テープから流れてきたのは、祖母の声ではなかった。

低い、男の声だった。何かが呟いている。

「……また来た……」

「……また来た……」

同じ言葉を、一定の間隔で繰り返している。背景には、古い家の軋む音と、誰かが床を歩く重たい足音が聞こえる。

私はテープを止めた。

「大丈夫ですか?」

作業員が聞いてきた。

「あ、ああ……ただ、古いテープだね」

そう言って、私は三本目のテープを箱に戻した。

その夜、私は都会の実家に帰って、手持ちのテープレコーダーでそのテープを再生した。

音は昼間よりも明確だった。

低い男の声。

「……また来た……」

そして、その直後に、別の声が聞こえた。

祖母の声だった。

「もう来ないで。お願い」

テープはそこで切れていた。

一週間後、私は再び田舎の家に向かった。

押入れの箱をもう一度開けて、三本目のテープを取り出した。

箱の中には、もう一本、テープが入っていた。

ラベルには「昭和五十八年 録音」と同じ字で、下に小さく追加で書かれていた。

「録り直し」

私はテープレコーダーに挿し込んだ。

最初は静かだった。

そして、祖母の声が聞こえた。

「……また来た……」

低い男の声だった。

その直後、別の声も重なった。

今度は二人の声。

「……また来た……」

「……また来た……」

同じ言葉が、二つの声で重なって繰り返される。

その時、録音の中から、一つの変化に気づいた。

二つ目の声が、少しだけ遅れて、祖母の声を模倣している。

「……また来た……」

「……また来た……」

「……また来た……」

私はテープを止めた。

押入れの箱に戻そうとした時、ふと気づいた。

このテープ、本当に「録音」なのか。

もしこれが、誰かが部屋に潜んでいるのを、こっそり録音したものなら――。

私は二階の押入れに立っていた。

そして、今も、その家の二階には、誰かがいるのかもしれない。