祖母の古民家を片付けていたら、押入れから昭和の録音テープが見つかった
2026年09月18日
祖母が亡くなってから三ヶ月が経った。
田舎の一軒家は、生憎と私が都会に引っ越してから十年以上、誰も手付かずの状態だった。
片付けを手伝おうと、地元の作業員二人を雇って向かったその日の午後、まず最初に手が付いたのが二階の押入れだった。
祖母は昔から、何かを保管することに執着する人だった。押入れには段ボールが三十箱以上、廊下には衣類や食器が山積みになっている。
「この家、本当に住めるんですか?」
作業員の一人が、半笑いでそう聞いてきた。
「畳もカビてますし、屋根もボロボロですねえ」
私は苦笑いして、黙って箱を開け始めた。
そのうちの一箱から、カセットテープが五本ほど出てきた。
透明なケースは黄ばみ、ラベルには祖母の字で「昭和五十八年 録音」と書かれている。
「おばあちゃん、昔からカセットテープ好きだったよな」
私は適当にテープレコーダーを探し、見つけてはテープを挿し込んだ。
一本目は、祖母が独り歌を歌っている音だった。古い民謡らしい。声はもう若々しい。
二本目は、庭の虫の声と風だけ。無音に近い。
三本目を入れ替えた瞬間、私は背筋が凍るのを感じた。
テープから流れてきたのは、祖母の声ではなかった。
低い、男の声だった。何かが呟いている。
「……また来た……」
「……また来た……」
同じ言葉を、一定の間隔で繰り返している。背景には、古い家の軋む音と、誰かが床を歩く重たい足音が聞こえる。
私はテープを止めた。
「大丈夫ですか?」
作業員が聞いてきた。
「あ、ああ……ただ、古いテープだね」
そう言って、私は三本目のテープを箱に戻した。
その夜、私は都会の実家に帰って、手持ちのテープレコーダーでそのテープを再生した。
音は昼間よりも明確だった。
低い男の声。
「……また来た……」
そして、その直後に、別の声が聞こえた。
祖母の声だった。
「もう来ないで。お願い」
テープはそこで切れていた。
一週間後、私は再び田舎の家に向かった。
押入れの箱をもう一度開けて、三本目のテープを取り出した。
箱の中には、もう一本、テープが入っていた。
ラベルには「昭和五十八年 録音」と同じ字で、下に小さく追加で書かれていた。
「録り直し」
私はテープレコーダーに挿し込んだ。
最初は静かだった。
そして、祖母の声が聞こえた。
「……また来た……」
低い男の声だった。
その直後、別の声も重なった。
今度は二人の声。
「……また来た……」
「……また来た……」
同じ言葉が、二つの声で重なって繰り返される。
その時、録音の中から、一つの変化に気づいた。
二つ目の声が、少しだけ遅れて、祖母の声を模倣している。
「……また来た……」
「……また来た……」
「……また来た……」
私はテープを止めた。
押入れの箱に戻そうとした時、ふと気づいた。
このテープ、本当に「録音」なのか。
もしこれが、誰かが部屋に潜んでいるのを、こっそり録音したものなら――。
私は二階の押入れに立っていた。
そして、今も、その家の二階には、誰かがいるのかもしれない。