インターホンのボタンだけが闇の中から光っている様子

これは自分の話だ。

去年の冬、僕は東京都内の築二十五年ほどのマンションの十二階に住んでいた。エントランスのインターホンと各部屋の受話器が繋がっているタイプで、来訪者はエントランスでボタンを押す。部屋では「ピー、ピー」と鳴る。

毎晩、寝る前にインターホンの電源を切っている。スイッチは受話器の横についていて、オフにすると鳴らなくなる。これで夜中の誤作動やセールスの電話を防止できる。普通は誰も来ない。

それが先月の話。

深夜二時三十分頃だった。僕は寝落ち状態でソファに座っていた。テレビの音声だけが部屋に響いている。

「ピー、ピー」

インターホンが鳴った。

何年か夜中に来ないな、と思いながら、僕は受話器を取ろうとした。でも、ちょっと待て、と思った。電源オフのスイッチを確認した。

確かにオフになっている。

でもインターホンは鳴り続けている。

「ピー、ピー、ピー」

ピッチが少し高くなっている。まるで、正常な鳴り方ではない。僕はソファから立ち上がり、エントランスのモニターを確認しようと階段を下り始めた。十二階。エントランスのインターホンモニターには、何も映っていない。カメラが作動していない。

でも、部屋の中でインターホンは鳴り続けている。

「ピー、ピー、ピー」

僕はエントランスのインターホン本体を見た。ボタンが押されていない。誰も押していない。

それでも鳴っている。

その時、ふと気づいた。鳴り方がおかしいのだ。

「ピー……ピー……ピー」

間隔が、少しずつ短くなっている。まるで、誰かがボタンを連打しているように。

でもボタンは押されていない。

僕は部屋に戻った。インターホンの鳴りはまだ続いている。受話器を手に取った。そのまま通話に出たらどうなるのか、試しに受話器を取った。

向こうから声が聞こえた。

「……お……は……よ……」

遅い。とても遅い。まるで、音源を半分速で再生しているような声。

僕は受話器を置いた。インターホンは、その瞬間、鳴りやんだ。

次の日、大家さんに話したら、笑って「インターホンの基盤が古くなってるんだよ。たまに誤作動するよ」と言った。

でも、僕は知っている。

インターホンの電源スイッチは、その後も常にオフだったということ。

そして、その夜以降、インターホンは一度も鳴っていない。

でも、時々、寝ている時に感じるのだ。

受話器の横にある電源スイッチが、勝手にオンになっているのを。