インターホン
2026年10月06日
インターホン
知人の話。30代前半の男性、東京都内のマンション在住。
彼が住んでいるのは築15年ほどの13階建てマンション。12階の角部屋、日当たりも良く、特に問題のない物件だった。
ある日のこと。
深夜2時すぎ。彼は寝ていて、突然インターホンのベルに起こされた。
「ん? 誰だろう」と、彼は時計を見た。02:14。
インターホンのボタンを押すと、モニター画面に映っていたのは——
彼の自分自身だった。
モニターの中には、彼と同じ格好をした男が立っていた。同じパーカー、同じジーンズ。同じ顔。
ただ、モニターの中の彼は、笑っていた。
広げられたモニター画面の小さな液晶の中で、モニター外の彼と同じ顔をした男が、口を大きく開けて笑っている。
彼はインターホンを切った。
心臓が早鐘を打つ。
「冗談か……誰かの悪戯だ」と、彼は深呼吸してまたインターホンを見た。
モニターは黒くなっている。
しかし、次の瞬間、またベルが鳴った。
02:17。
彼はおそるおそるボタンを押す。
モニターには、また彼が映っていた。今度はモニターの中の世界が、彼の部屋の中だった。
彼が今座っているソファ、テレビ、テーブル——全部モニターの中に映っている。
そしてモニターの中の彼の背後に、もう一人の影が立っていた。
彼は振り返った。背後には誰もいない。
モニターを見ると、影が少しずつ近寄っている。
彼が慌ててインターホンを離れると、モニターは消えた。
それっきり、インターホンが鳴ることはなかった。
彼は翌日、大家にインターホンの調子がおかしいと相談した。
大家さんは少し黙ってから、こう言った。
「前の入居者の方も、同じことを言われてましたね。『モニターの中に自分が映る』って」
「それで?」
「あの方は、引っ越したあと、行方不明になりました。警察も捜索しましたが、見つからなかった」
彼は、その夜からそのマンションを出た。
今でもたまに、寝ているとインターホンのベルが鳴る夢を見る。
夢の中で彼はインターホンのボタンを押す。
モニターには、彼が映っている。
モニターの中の彼は、泣いている。
助けて。モニターの中から出られない。
この話、知人の知人から聞きました。知人の友人が実際に住んでいたマンションだそうです。今その部屋が空いているかどうかは、わかりません。