インターホン

インターホンの挿絵

知人の話。30代前半の男性、東京都内のマンション在住。

彼が住んでいるのは築15年ほどの13階建てマンション。12階の角部屋、日当たりも良く、特に問題のない物件だった。

ある日のこと。

深夜2時すぎ。彼は寝ていて、突然インターホンのベルに起こされた。

「ん? 誰だろう」と、彼は時計を見た。02:14。

インターホンのボタンを押すと、モニター画面に映っていたのは——

彼の自分自身だった。

モニターの中には、彼と同じ格好をした男が立っていた。同じパーカー、同じジーンズ。同じ顔。

ただ、モニターの中の彼は、笑っていた。

広げられたモニター画面の小さな液晶の中で、モニター外の彼と同じ顔をした男が、口を大きく開けて笑っている。

彼はインターホンを切った。

心臓が早鐘を打つ。

「冗談か……誰かの悪戯だ」と、彼は深呼吸してまたインターホンを見た。

モニターは黒くなっている。

しかし、次の瞬間、またベルが鳴った。

02:17。

彼はおそるおそるボタンを押す。

モニターには、また彼が映っていた。今度はモニターの中の世界が、彼の部屋の中だった。

彼が今座っているソファ、テレビ、テーブル——全部モニターの中に映っている。

そしてモニターの中の彼の背後に、もう一人の影が立っていた。

彼は振り返った。背後には誰もいない。

モニターを見ると、影が少しずつ近寄っている。

彼が慌ててインターホンを離れると、モニターは消えた。

それっきり、インターホンが鳴ることはなかった。

彼は翌日、大家にインターホンの調子がおかしいと相談した。

大家さんは少し黙ってから、こう言った。

「前の入居者の方も、同じことを言われてましたね。『モニターの中に自分が映る』って」

「それで?」

「あの方は、引っ越したあと、行方不明になりました。警察も捜索しましたが、見つからなかった」

彼は、その夜からそのマンションを出た。

今でもたまに、寝ているとインターホンのベルが鳴る夢を見る。

夢の中で彼はインターホンのボタンを押す。

モニターには、彼が映っている。

モニターの中の彼は、泣いている。

助けて。モニターの中から出られない。


この話、知人の知人から聞きました。知人の友人が実際に住んでいたマンションだそうです。今その部屋が空いているかどうかは、わかりません。