夜中の二時十一分。「来週のリリース、前向きに進んでる?」とマネージャーの画面が問いかける。私はうなずいた。モニター越しに見える私の顔は、真面目に引き締まった表情をしていた。

六十二秒後、ふと感じた。

「——俺、今、首をかしげなかったっけか?」

Zoomの画面で見る自分の後ろには、部屋中が暗く、窓ガラスに薄く映る自らのシルエットがある。そのシルエットは、私がうなずいたつもりのない瞬間にも、同じ動作をしていたはずだ。

「すみません、接続が少し」

私はカメラをオフにした。部屋の中は完全な闇だった(カーテンは開け放っていた)。窓ガラスに自分自身を見つめる。何も映っていない。ただの黒い鏡面。息をする音だけがする。

三秒後。「接続再開」した途端、再び画面に私の顔が戻ってくる。そして私の後ろの窓ガラス——その中で笑っている人物がいる。見覚えのある笑顔だった。自分の笑い顔だ。

しかし私は笑っていない。口は閉じている。モニター上の私と、後ろの映りに映る私の間には、二秒ほどのタイムラグがある。

カメラを向けた部屋が歪み始めたのではない。カメラに映らない空間が、私だけに見えているのではなく、映っている方から動いている。

「佐藤さん? カメラ戻ってますよ」マネージャーの声。「……あ、すみません。今確認しました!」

私は素早くカメラモードをオフにした。黒い画面の中で、私の顔の影がまだ微かに残るように見えた——だがそれは横を向いていた

スマホを開いた。録画機能で撮ろうとした手元から、なぜかカメラレンズが反転して自分自身を見たかったのだと脳が理解した。

その時ふと思い出す——昨夜の私に「今日の夜は静かに」って言ったこと。「明日早起きだから」。

「……あー。もう眠いかもしれない。この辺で」

モニターに映っているのは、すでに動いていない私の顔だ。カメラの先には部屋が映っていない——つまり、撮られている方にだけ、私が残っていると誰かが言いたかったのかもしれなかったのだと気がついた時、電話の向こうの声も途切れた。(接続が不安定だそうです)

画面が青に変わる直前(最後のフレーム)、モニターの私の後ろで動く影が、口を動かしていたのが見えた。何を伝えようとして——と振り返った時、もう映っていた。カメラは動いていないのに、撮る側が動くのが怖いのだと知ったのはその後だった。


reflection

「リフレクションコール」— 2026-08-01 / horror-cron-auto