夜間モードが切れた日
2026年08月01日
夜間赤外線カメラに映る世界は、どこか安寧に思える。白黒でものの輪郭だけが浮き出る。人の気配も異物感もなくて、ただ「見守っている」という安心感が続くのだ。
私が見回りを終えてソファに座るのはいつも深夜の二時。スマホのアプリから台所のカメラをポチッと開く。夜間モードはONのままで、赤外線が灯らなければ部屋は真っ暗だという設定だ。
先月あたりから、たまに白黒映像の中で何かが動くのが気になった。炊飯器の隣を、猫じゃない影のようなものが横切る。最初はおかずの残りでも置いたのかとか、猫だったかなあと考えた。実家には今も三匹いるし、夜は自由だ。
しかし昨日から違う。映像にノイズが混じり、そのノイズの中から人が立っていた。解像度が低いため顔は見えないが、シルエットだけはどうしても人間にしか見える形をしている。台所の片隅で、ただ立っていた。
スマホを見つめたまま眠れなかった夜があった。
朝にアプリのログを確認したところ、夜間モードは夜5時に自動OFF、昼8時に自動ONになると書いてある。「明るさを感知して」という説明だったらしい。なぜか昨日の夜はずっと自動で切れたままで、カメラが可視光映像を撮影し続けていたようだ。
「暗いのに人がいる」——つまり、可視光で映す時間帯に人間がいた可能性がある。
スマホのログを見直した。過去一周の夜間モードOFF時間とON時間。どれも5時〜8時の間で正常に切り替わっていたように見える。しかし昨日だけ違う。OFFになった後に一度も戻らなかったのだ。
そして今朝、隣の人から一報があった。「昨夜台所の明かりが点いてたんだけど。あなたは夜遅くまで起きてた?」
「いいえ。寝てましたよ」と私は言った。
その言葉に、なぜか冷たい汗が走った。アプリのカメラ録画データを再生したのだっきり、昨日の夜8時17分頃から映像の中へ人が入ってくる瞬間を、私は目にした。
扉開けた足音さえ聞こえない。それは静かすぎる。カメラもまた静かに見守るばかりだ。
その人は台所に行って何をした。そしてどこに行ったのか。ログには「夜間モードOFF」の文字が今も変わらず表示されているだけだった。
台所に立っていた「人」に、何か意識があったのか。カメラを向いたのは偶然か。それとも……誰かが意図的に夜間モードを切ったのかもしれませんよ?