実録。知り合いの大家さんの話です。

大阪府内の団地を3棟管理している、50代の男性大家さんがいた。昭和50年代に建築された鉄筋コンクリートの集合住宅で、入居者はもともと長年住む高齢者が中心だった。

「管理室なんてもう30年同じやで。鍵も机の引き出しに3本、いつも同じ場所に置いてある」

彼はそう言って、管理室の机を指さした。机の右上、定位置に鍵が並んでいる。それが毎日同じ場所にあることを、30年続けてきた。

ある日、深夜の2時頃、彼は管理室の鍵を開けて入った。水道メーターの点検で、3号棟の地下1階に行くためだった。

その時、耳にした。

カチ、カチ、カチ

机の引き出しから、鍵が動く音。

「……誰か入ってんのか」

懐中電灯を点け、部屋の中を照らした。誰もいない。管理室のドアは施錠されたまま、窓も閉まっていた。

「おれの勘違いやろな」

そう思い、点検を済ませた。翌日も、その翌日も、同じ音がした。毎日深夜2時頃。鍵が3本、少しずつずれる。

「引き出しの奥へ、1cmずつ動いていくんや。まるで、何かが鍵を必要としてるみたいに」

彼は管理室に監視カメラを設置した。

再生された映像に、彼は息を呑んだ。

深夜2時。管理室のドアが開く。誰も入っていない。はずだった。

映像の隅、机の引き出しの隙間から、黒い手が伸びて鍵を一つずつ取り出していく。

手は、引き出しの隙間から生えていた。

3本目の鍵を取り出すと、手は引き出しの中に消えた。その瞬間、映像がノイズにまみれ、30秒間、画面が白く歪んだ。

次の瞬間、鍵は元の定位置に戻っていた。

彼は翌日、引き出しの奥を調べた。引き出しの底板に、小さな穴が空いていた。直径2cmほどの穴。その奥は、壁の空洞だった。

「30年の間、誰かがその穴から手を伸ばしてたのかもしれん」

彼は3号棟の管理室だけ閉鎖した。その団地は、半年後に解体された。

今でも、彼は深夜2時の鍵の音で目が覚めるという。

「おれが鍵を置いたんじゃない。誰かが動かしたんだ」