僕が夜ランを始めたのは、去年の春からだ。

会社員として残業が日常になり、体重が急激に増えたのを機に、健康的になろうと決意したのがきっかけだった。朝走るのも考えたが、睡眠時間を削るのが嫌で、結局22時過ぎに家を出る深夜ランに落ち着いた。

住んでいるのは東京都内から少し離れた、住宅街の端にある公園だ。週3回、3kmを走っている。道は決まっている。家を出て、まず静かな住宅街を抜け、最後が緑多い公園。公園の中を一周して戻る。これだけ。

最初は特に何もない。ただ走る。ヘッドホンで音楽を聴きながら、頭を空っぽにする時間だ。

それが、先月の話から変わった。

いつものように公園を走っているとき、ふと気づいた。背後から足音が聞こえるのだ。

「あー、夜中にもランナーいるんだな」

そう思って気にしなかった。しかし、その日以来、毎日同じことが起きた。走っている最中に、背後から足音が聞こえる。走っているのに、止まると足音も止まる。

最初は「同じ時間に走る人がいるんだな」と思っていた。しかし、ある日、試しに走っているのをやめて、その場で立った。

足音も、すぐに止まった。

それ自体はそれほど不気味ではない。同じ時間にランニングする人がいるのは、都会では珍しくない。しかし、僕が歩幅を変えたとき、不思議なことに気づいた。

僕がゆっくり歩くと、背後の足音もゆっくりになる。僕が早歩きすると、足音も早くなる。まるで、僕を追いかけているのではなく、僕と同じ動きをコピーしているのだ。

「いや、ただの偶然だ」

そう自分に言い聞かせた。しかし、その夜、公園の出口付近で、ふと後ろを振り返った。

暗闇に、人影がぼんやりと見える。

50メートルほど離れている。完全にシルエットで、顔も服もわからない。ただ、立っているだけだ。僕が振り返ったことに気づいたのか、人影は動かなかった。

僕は走って家に戻った。

その日以来、公園には行っていない。しかし、昨夜、家の中で奇妙なことが起きた。

23時頃、寝室でスマホを操作していたときだ。

階下の廊下から、足音が聞こえた。

カチ、カチ、カチ

僕は一戸建てに住んでいる。家族は誰もいない。ペットもいない。

足音は、ゆっくりと、階段を上がってくる音がした。

僕が動くと、足音も止まる。

今、この文章を書いている間も、時々、階下から微かな音が聞こえる。

おそらく、ただの家の歪みだと思う。古い家だから。

そう思いたい。

でも、僕が歩くと音が止まるのが、どうにも気になる。

深夜の公園