去年の冬、私は都内のアパートに一人で住んでいた。

部屋の洗濯機が壊れてしまい、近所の二十四時間営業のコインランドリーに通うことになった。夜中の二時頃、人がいない時間帯を選ぶ。混雑を避けるためだ。

店内は白熱した蛍光灯に包まれ、洗濯機のモーターが回る低い轟音が常に響いている。十二台の洗濯機が並ぶうち、三台が稼働している。残り九台は停止しているが、その静けさもまた、どこか不気味だった。

私は七台の洗濯機に服を入れ、コインを入れて回転させ始めた。

一回目は特に何も感じなかった。洗濯機が回りはじめる音、水滴が跳ねる音、そして乾燥機から漏れる温かい空気の匂い。ただの深夜の洗濯だ。

二回目の洗濯機に服を入れようとした時、ふと気づいた。

七台目と八台目の洗濯機の間に、もう一台の洗濯機があるはずだということだ。

店内には十二台の洗濯機が並んでいる。私は七台目までしか使っていない。八台目以降は空いているはずだ。

でも、七台目の横には、八台目の洗濯機がない。

代わりに、黒い金属の板が壁まで続いている。

「あれ?」

数歩戻って数え直した。

一、二、三、四、五、六、七。

七台しかない。

元々この店内には七台の洗濯機しかなかったのかもしれず、私が勘違いしているだけかもしれない。でも、入ってきた時に見た店内の配置は違っていた。十二台が並んでいる。そう、確信していた。

私はその場を離れ、入口で鏡のような金属の扉を通り抜けようとした。その時、後ろから洗濯機の音が聞こえた。

七台目ではない。八台目の場所から、洗濯機が回り始めている音だ。

でも、私は八台目にコインを入れていない。誰も入店していない。

振り返ると、七台目と壁の間に、先ほどまでなかったはずの洗濯機が一台、立っていた。黒っぽい外観で、前面のガラスは曇っている。その中身はよく見えない。

「……何か入ってる?」

近づいてガラスの向こうを覗き込んだ。

水が渦を巻いている。その中に、何かが浮かんでいる。白い、布のような形。でも、それは私の入れた洗濯物ではない。形が不自然で、まるで人間の手が伸びているようだった。

その時、洗濯機が脱水に入った。

強烈な振動とともに、ガラスの向こうでその白いものが高速で回転し始めた。形が崩れ、そしてまた元に戻る。まるで、何かが苦しがっているように見える。

私は背筋が凍るのを感じた。

その洗濯機のコイン戻し口を見ると、私の入れたはずのコインが、戻ってきていた。洗濯が取り消されたということだ。

でも、洗濯物は中に入まったまま。

慌てて他の洗濯機を確認した。七台とも、正常に回っている。私の洗濯物は、全て無事だった。

ただ、七台目と壁の間に立っていた洗濯機だけが、異様に動いていた。

私はその場を逃げ出した。

翌日、そのコインランドリーに行ってみた。十二台の洗濯機が並んでいた。七台目と八台目の間に、何もない。

店員に尋ねてみた。

「あの、七台目と八台目の間の洗濯機って、いつもあんなに古いですか?」

店員は不思議そうな顔をした。

「七台目と八台目の間なんてありませんよ。元々この店は七台しかありません。」

私は背中に寒気を感じた。

入ってきた時に見た十二台の洗濯機は、何だったのか。

そして、あの洗濯機の中に入っていた白いものは。

それ以来、私はそのコインランドリーには行っていない。

ただ、たまに夜中に目覚めると、遠くから洗濯機が回る音が聞こえたような気がする。

それは、私の洗濯物を回している音かもしれない。

あるいは、あの洗濯機が、新しい洗濯物を求めている音かもしれない。

挿絵