僕がバイトしているコンビニは、都内から30分ほど電車を乗継いだ先の住宅街にある。深夜2時〜朝6時までのシフトで、店長が朝6時に opening して、その間に閉店後の片づけと仕込みをやる。客はほとんど来ない。静かすぎるくらい静かだ。

店の奥に、お客様から預かった忘れ物を置く小さな棚がある。傘、財布、鍵、時々学生証やカードケース。誰も取りに来ないものは月イチで廃棄している。

ある日のこと、閉店後の片づけをしていると、棚の一番下に何かあるのに気づいた。

革靴の左足だった。

サイズは26cmくらいか。ビジネス用のストレートチップ。革は少し擦れていて、履き込んだ痕がある。靴底には土のようなものが付いていた。

「誰かが落としたのかな」

そう思って僕は、棚の一番上に置いて片づけを続けた。

次の日。閉店後、棚を見たら、また何かある。

今度は右足だった。同じサイズ、同じデザイン。左足の革靴のペア。

「あ、ペアで落ちてたんだ」

そう思っても、僕は特に気に留めず、棚に置いておいた。

三日目。

棚を見ると、また何かある。

今度はスニーカー。サイズ25cm。白いランニングシューズ。靴紐はほどけて、床に転がっていたような状態だった。

僕はこの瞬間、少し不気味だな、と思った。

忘れ物棚に、靴が。

しかも1足ずつ。

そして四日目。

棚を見ると、また1足。今度はサンダル。女性用のフラットサンダル。サイズ23cmくらい。

五日目。

スリッパ。白い、コンビニでよく配っている那种の、安物のスリッパ。サイズ27cm。

僕はもう、棚に近づかなくなった。

いや、正確に言うと、近づくのはやめなかった。でも、棚を見ないようにして片づけを続けた。

六日目の夜。

閉店後、僕が棚の近くを通りかかったとき、ふと目に入った。

棚の上に、また1足、靴が置かれていた。

でも、それは新しい靴ではなかった。

棚に置いてあった、他の靴たち——革靴、スニーカー、サンダル、スリッパ——が、全部なくなっていた。

代わりにあったのは、1足だけ、黒い長靴。

サイズは小さくて、子供用の長靴だった。

靴の中には、水が入っていた。

濁った、茶色い水が、底に少し残っていた。

僕はその時、ふと気づいた。

この靴、毎日1足ずつ増えていくように見えたけど、実は——

靴は増え続けていたんじゃない。

棚にあった靴たちが、毎日1足ずつ、新しい靴に置き換わっていたんだ。

そして今、最後に残ったこの長靴が、最後の靴なんだ。

僕は棚の奥を、懐中電灯で照らしてみた。

棚の一番奥の隙間から、何かが、ゆっくりと、僕の方へ向かって、伸びてきた。

人間の指ではなかった。

爪はなかった。

色は、白かった。

でも、それは指ではなかった。

それは、靴の形をしていた。

靴の形をした、白い、何かが、棚の隙間から、ゆっくりと、伸びてきた。

僕は逃げた。

次の日、僕は辞めた。

後任のバイトが、棚を見ながら言った。

「これ、前の人が捨てなかったやつ? 毎日増えてるよ」

棚には、また1足、靴が置かれていた。

今度は、僕の靴と同じサイズ、同じデザインの靴だった。