薄明けた海岸。引き潮で露出した岩場で、透明なプラスチックケースが一つだけ光を反射している

「引いた潮は元通りに戻らないものも持ってくる。 — 南浦港・漁業組合内部通達(日付不明)/

南浦沖にて遺体回収作業中に発見された、記録番号07−421。三月の朝五時、潮位が零下八十センチまで下がった日のことである。

捜査員・松永拓也は防犯カメラのように証拠品の配置を記録した。カプセル容器三個、防水バッグ二つ、手記一枚。どれも「海から収拾」タグ付きで、それぞれの収容物に日付の書かれた紙片が添えられていた。

ただし一つだけ異質な物が混じっていた。

A4サイズの合成樹脂ケース。「私有物 — 渡辺美沙子様」とプレートがネジ止めされている。ケース内には白紙と筆記具はなく、その代わりに一枚の手記が入力されていた。

「2027年4月16日 — 潮引きの前夜」。本文冒頭は「誰か助けて」の繰り返しだった。しかし末尾三行だけが突然異なる文体に切り替わる。

「松永拓也さん、このメモを読むべきではありません。あなたは明日になるまで気づかないはずです。」

松永は名指しされた捜査官本人であった。「2027年」 — 一年も先の未来の日付で書かれているのだ。

同日午前に漁業組合長・鈴木が証言を変更した。「網にかかったのはケースではなく岩だった」と。「プラスチックの容器なんて見ていない。」— 変更前の記録では明確に「カプセル容器」と供述していたことを松永は目視確認した。同じ人物、同じ事件、二つの証拠 contradicts each other.

松永は証拠室で再度ログを見直していた時、壁面表示器に新しい注記が追加されているのに気づいた。「2026年7月23日 — 明日見上げるな」。インクは青黒く、既存の記録には存在しなかった。

彼はカメラの前を睨んだ。画面の赤ランプが一瞬点滅した後、松永拓也の名前が消去されたかのようにモニターに表示されなくなっていたのだと理解した時、潮の音だけが聞こえ続けていた。

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