実家の押し入れに、自分とそっくりな着ぐるみが眠っていた。

これを書いているのは僕、28歳のサラリーマンだ。去年の夏、祖母の葬儀で実家に帰った時の話。

押し入れの着ぐるみ

実家は地方の田舎で、二階建ての戸建て。僕が子供の頃は、二階の廊下の突き当りに広い押し入れがあった。祖母曰く「昔の衣装や着物が入っているから、勝手に開けないように」だった。

葬儀が終わった後、片付けを手伝うことになった。押し入れの鍵は祖母が持っていたけど、葬儀で使った鍵束の中に同じ形のものがあって、開けてみると……

中は着物や帯、古い小物がぎっしり。その奥の方で、不気味な物を見つけた。

着物を着せた人形だった。でも、ただの人形じゃない。

顔が、僕にそっくりだった。

子供の頃の顔。小学生くらいの頃の僕。

「はっ、面白い人形を作ったんだな」

そう思って、もっと近づいて見た。

着物は祖母の形見の絞り染め。髪型も、子供の頃の僕の髪型そのもの。目の色、鼻の形、口元。どこを取っても僕そのもの。

「おばあちゃん、これ何? 誰かに頼まれたの?」

母親に聞いたら、顔色を変えて言った。

「あ、あの物は……祖母が昔、自分のために作らせたんだよ。昔の信仰で、自分のそっくりな人形を作って、自分の災いを代わりに引き受けるって言うのがあるんだって」

「それで、押し入れの奥にしまってあったの?」

「うん。祖母が亡くなったから、もう要らないと思って」

僕は笑って、その人形を押し入れの奥に戻した。でも、その夜から違和感が始まった。

まず、部屋の温度。

二階の部屋はいつも暑かった。冷房をつけていないのに、なぜか汗が止まらない。窓を開けても、外の風が当たらない。

そして、音。

夜中、押し入れの中から、布が擦れる音がする。

「ふっ、猫でも入ったか」

そう思って無視した。でも、三晩目には音が変わっていた。

布が擦れる音ではなく、靴を履いた足音が、押し入れの中で歩いている音。

「パタ、パタ、パタ」

子供の靴の音。

僕は押し入れの鍵を持った。夜中、冷や汗をしながら鍵を差して開けた。

中は暗くて、懐中電灯の光が僅かに届く。着物や小物はそのまま。人形も、僕が戻した場所にそのままあった。

でも、人形の向きが変わっていた。

僕が戻した時は押し入れの奥を向いていたのに、今では外を向いていた。

そして、目が開いていた。

閉じていたはずの目が、開いていた。

黒い目が、僕を見つめていた。

「っ……」

僕は鍵を閉めて、部屋に戻った。それから一週間、実家にいないで東京に戻った。

でも、その後もメールが届くようになった。

実家の番号から、自分宛のメールが。

本文には、ただ一行。

「お兄ちゃん、一緒にいたい」

送り主の名前は、僕の名前だった。

実家の押し入れには、今もあの着ぐるみが眠っていると思う。

祖母が亡くなった今、誰が着物を着せるの?

誰が足を運ぶの?

誰が、僕の名前でメールを送るの?

もしかしたら、僕が実家を離れた今、代わりに誰かが着ているのかもしれない。

僕とそっくりな、誰かの着ぐるみが。