知人が教えてくれた話なんだけど、本当に背筋が凍る体験だった。

知人の田中(28歳、会社員)は、仕事帰りに地下街を通って駅へ戻るのが日課だった。自宅がオフィスから徒歩15分の場所にあるため、夜中になると通りすがりの人もまばらになる。

「ちょうど午後11時頃だったかな」

田中が語るには、地下街の飲食店街を抜け、駅への階段が見え始めたあたりで、壁に設置されたエレベーターの表示がふと気になったという。

通常、その地下街のエレベーターはB1〜地下3階までしか行かない。ビルが地下3階まで地下になっているからだ。

なのに、表示パネルには「4」の数字が点滅していた。

田中は「えっ、地下4階なんてあったっけ?」と一瞬思った。

地下街の案内図を見ても、B1〜B3まで。地下4階など存在しない。

しかし、エレベーターの呼び出しボタンを押したとき、表示は「4」のままだった。

「誰もいないのに」

田中は振り返った。背後には自分一人。エレベーターホールには誰の気配もない。

それでも、エレベーターが「カン」と音を立てて到着した。

ドアが開いた中は、白っぽい蛍光灯の光が点いていて、中はきれいだった。

田中は「もういいや」と思い、エレベーターに入った。

ボタンのパネルを見ると、B1、B2、B3……。そして、一番下に「4」のボタンがあった。

地下に4階なんてない。

田中はB1を押そうとした瞬間、エレベーターが動き出した。

「ガタン」

最初の音は普通だった。B1へ向かって上っている。

しかし、B1で止まらない。表示はB1の次、B2、B3と進む。

そして、B3を過ぎた後、表示が「4」に切り替わった。

田中は息を止めた。

エレベーターは止まった。

ドアが開く。

向こうには、暗い廊下が広がっていた。

蛍光灯の光は、田中のエレベーターより少し黄色がかった。

廊下の壁には、古いポスターが貼ってあった。

「募集」の文字だけが、かすかに読めた。

田中はすぐにエレベーターに入り直そうとしたが、ドアが閉まらない。

「閉まるまで、閉まらない」

ボタンを連打した。無反応。

そのとき、廊下の奥から、足音が聞こえた。

「タッ……タッ……タッ……」

ゆっくりと、近づいてくる。

田中は慌てて、エレベーターの非常ボタンを押した。

ビュン、という音と共に、エレベーターが急激に下へ動き出した。

田中は床に崩れ落ちた。

エレベーターが止まったとき、表示はB1だった。

ドアが開くと、いつもの地下街の飲食店街が広がっていた。

田中は走ってその場を離れた。

「それ以来、そのエレベーターには乗らない」

田中はそう言って、少しの間沈黙した。

「でもさ」

「何だよ」

「その後、地下街の案内図を見直したら」

「?」

「地下4階、あったんだ」

「ちょっと待って。だって、ポスターに『募集』って……」

「そう。募集してるのは、地下4階の店舗だったらしいよ」

田中は最後に、こう言った。

「エレベーターが止まったとき、廊下の先にいたのは、募集に応募してきた人だったのかな」

「それとも」

「募集されていた側、だったのかな」